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【 じっくり映画館 】No.064

ヒトラーを欺いた黄色い星


2017年  ドイツ  111分

監督
クラウス・レーフレ

出演
マックス・マウフ
ルビー・O・フィー
アリス・ドワイヤー
アーロン・アルタラス
ヴィクトリア・シュルツ
フロリアン・ルーカス

   Story
 第2次世界大戦下のベルリンで、ホロコーストを免れて戦後まで生き抜いた4人のユダヤ人の実話を、本人たちへ のインタビューや記録映像を交えて映画化。

 1943年6月、ナチスの宣伝相ゲッベルスは、ベルリンにおけるユダヤ人の絶滅を宣言する。
 しかし、じっさいには約7000人のユダヤ人がベルリンに潜伏していた。

 その中に、ツィオマ・シェーンハウス(マックス・マウフ)、ルート・アルント(ルビー・O・フィー)、ハンニ・レヴィ(アリス・ドワイヤー)、 オイゲン・フリーデ(アーロン・アルタラス)の4人の若者がいた。

 ユダヤ人迫害の激しい嵐が吹き荒れる中、彼らは素性を隠し、あるいはドイツ人になりすまし、 ゲシュタポや密告者の目を逃れて、ドイツ人の助けを借りながら潜伏を続ける・・・。


   Review
 第2次大戦時、一般市民の協力でゲシュタポの目を逃れようとしたユダヤ人としてまず思い浮かぶのは、「アンネの日記」で知られるフランク一家だ。 中学生の頃この本を読んで、アンネと同じ多感な年頃だったこともあって、衝撃を受けた。
 オランダ、アムステルダムに住む一家は協力者に匿(かくま)われて、 階段裏に作られた隠し部屋で物音一つ立てぬ息づまる暮らしを2年間過ごした後、密告者の通報で収容所送りになった。

 一方、1943年当時、ナチス宣伝相ゲッペルスがベルリンでの絶滅を宣言したにもかかわらず、 7000人に及ぶユダヤ人がゲシュタポや密告者の目を逃れてひそみ、1500人が生き延びたという。

 本作は、潜伏開始時に20歳だったツィオマとルート、17歳のハンニ、16歳のオイゲンの4人を取り上げて、 現在の本人へのインタビューとドラマ化した過去 (回想) を織り交ぜて、戦時下を生き抜いた彼らの様子を描いている。
 4人の中で最も印象に残るのは、若い頃を演じる俳優の特異な風貌もあって、ツィオマだ。

 機転が利くというか、優秀な技術者であることをアピールして収容所への移送を免れ、その後はドイツ人兵士を装 って空室を転々とし、さらには支援者の依頼を受けて、作業場を借りて潜伏ユダヤ人のために身分証明書を偽造する。

 これで多くのユダヤ人が命を救われる。
 しかし本人はそうした大義名分より、「この仕事が好きだったから」とあっけらかんとしたものだ。平時だったら犯罪だよ〜〜、とついクスリとしてしまう。

 彼には面白いエピソードが多いけれど、中でどきりとするのは、シュテラという彼が恋心を抱いていた美貌のユダヤ人女性と街なかで偶然出会う話だ。

 彼女はゲシュタポのスパイで、同胞を見つけては密告するのが仕事だったらしい。
 その噂はユダヤ人の間でひそかに広がっていたようだけれど、ツィオマは知らなかったらしく、彼女をお茶に誘い、部屋へ案内しようとさえする。 なぜかこの時はシュテラは自分から去っていくけれど、間一髮、ほんとに危なかったと思う。

 ツィオマ、ルート、ハンニ、オイゲンの4人はおたがいを知らず関わり合うこともないのだけど、2人のユダヤ人が彼らの人生に交錯する。その1人がこのシュテラなのだ。 彼女はツィオマだけでなく、ルートの兄の恋人エレン(ヴィクトリア・シュルツ)とも知り合いだった。

 ルートとエレンは戦争未亡人を装って映画を見に行き、その帰りに偶然シュテラに出会い、声をかけられる。 しかし、エレンはルートをひっぱり早足で行き過ぎる。シュテラの悪い噂を耳にしていたらしい。

 このルートとエレンがドイツ国防軍将校の家でメイドの職を得るエピソードが興味深い。
 将校は2人がユダヤ人と分かっていて雇い入れたらしい。ひそかな反ナチ士官だったのだろうか。闇市場に力を持っていて、豊富な食材で毎晩のように宴会を開く。 そして2人が給仕する。


 ある時ルートは招待客の1人に「綺麗な黒い目をしているね。ユダヤ人かい?」と聞かれる。すまして「ユダヤ人は絶滅しました」と答えるルート。ドッと笑いが湧く。
 「とっさの知恵を働かせなくちゃならなかったの」と、クスクスッと笑う現在の老いたルートが愛らしい。

 髪をブロンドに染め、名前も変えて別人になりすましたハンニは、隠れ家を失い、映画好きの常連客を装って映画館に隠れる毎日。
 ある日、彼女に思いを寄せる若者から、自分は出征するので母の話し相手になってほしいと頼まれる。 映画館の窓口係の母親は、ハンニがユダヤ人と分かってからも彼女を匿い、母娘のような絆を結ぶ。

 過去を語る彼らの口調が一様に明るいのに驚かされる。希望を捨てない楽天性、それを生命力といい換えてもいいかもしれない。 そして、善意のドイツ人との出会い、という「運」。

 多くの場合、これらのドイツ人は思いがけない成りゆきや出来事の中で、とっさにユダヤ人たちに救いの手を差し伸べている。 ドイツ人がすべてナチ党員ではなく、また、見て見ぬふりをしていた訳ではない。 人間は普遍的に “善き性(さが)” を持っているのだ、とそのことに救われる気がする。


 シュテラの他に、4人と交錯したもう1人の人物はヴェルナー(フロリアン・ルーカス)だ。 彼はツィオマと知り合いだったが、街なかで知人に見つけられ、ツィオマの目前でゲシュタポに逮捕される。

 しかし、アウシュビッツ送りを免れて連行された別の収容所から脱出し、ツテを頼って反ナチの共産主義の家族のもとに転がり込む。 そこは4人の中の最年少のオイゲンが匿われている家族だった。

 ヴェルナーは一家とともにホロコーストの実態を告発するビラ作りを始める。その根性の据わり方はただもう敬服のほかはない。 しかし彼は再び (一家とともに) ゲシュタポに逮捕されてしまう。

 オイゲンが繰り返す「ユダヤ人を嫌うのはいい。しかし、それとガス室に送るのはまったく別の問題だ」という静かな怒りの言葉が胸に突き刺さってくる。

 開戦時、ベルリンに潜伏したユダヤ人のうち、終戦まで生き延びたのは約1500人。 これが多いか少ないか受け止め方はそれぞれだろうけど、私は1500人もの (多くの) 人が・・・、よかった! と少なからず感動したのだった。
  【◎△×】7

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