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雨のニューオリンズ


1965年  アメリカ  110分

監督
シドニー・ポラック

出演
ナタリー・ウッド
ロバート・レッドフォード
ケイト・レイド
メアリー・バダム
チャールズ・ブロンソン
ジョン・ハーディング

   Story
 テネシー・ウィリアムズの一幕ものの戯曲を元に、フランシス・F・コッポラらが脚色した人生ドラマ。

 少女ウィリー(メアリー・バダム)は線路の上を歩いて遊びながら、自慢の姉だったアルバ(ナタリー・ウッド) や母ヘイゼル(ケイト・レイド)のことを話し始める。

 ・・・ミシシッピー州の田舎町トッドソンに鉄道会社の勤務評定員オーエン(ロバート・レッドフォード)がやって来る。
 彼が居を定めた下宿屋 “スター館” の娘アルバは町の男たちの人気の的。しかし母親ヘイゼルは資産家ジョンソン(ジョン・ハーディング)と結婚させたがっている。

 ある夜、オーエンは勤務評定で解雇を通知された従業員たちに袋叩きにされる。
 ハンサムなオーエンに熱を上げていたアルバは、傷の手当をしながら、憧れの街ニューオリンズへ行きたいという。

 オーエンは切符を買って下宿に戻るが、ヘイゼルに邪魔をされ、町を去る。 それを知ったアルバは母への反発から、ヘイゼルの年下の愛人JJ(チャールズ・ブロンソン)と結婚してしまうが・・・。


   Review
 邦題から大甘の恋愛映画と思ったら、意外にも辛口な人生ドラマだった。

 舞台はミシシッピー州の小さな田舎町トッドソン。アメリカの田舎町の閉塞感って、日本人の私には想像できないくらい強いものらしい。
 国土の7,8割が山で、狭い平地にごちゃごちゃ大勢の人間が密集して暮らしている日本にくらべると、広い国土のアメリカはさぞ開放感がありそうに思うけれど、 広すぎるためにどこに行くのも容易ではなく、かえって閉じ込められた感覚が生じるようなのだ。

 美人で社交的で、男たちの憧れの的のアルバ。でも彼女にしてみれば、こんな小さな田舎町でモテても仕方ない。都会で勝負してみたい。
 でもどうすればここを出ていけるのかが分らない。そんな時に行動の触媒になるのは「よそ者」と相場が決まっている。 本作では鉄道会社から派遣されたリストラ専門の調査員オーエンだ。


 アルバに扮するのは当時絶頂期のナタリー・ウッド、コケティッシュでとてもチャーミングだ。
 一方、デビューして間もないレッドフォードは、あっさり目のクールな個性がアルバに一向になびかないオーエンにぴったりだ。
 自分の魅力に自信満々のアルバと、承知の上でわざと素っ気なくするオーエンの駆け引きが面白い。

 アルバが廃電車の中でオーエンに夢や希望を語るシーンに興味を引かれた。アルバにはシートに積もった埃すらロマンティックな夢の一部に見える。 現実をフィクションで飾り、それが彼女の生きるよすがになっているのだ。
 一方、オーエンには埃は埃、なんの意味もない。「夢はない」といい切る彼は、あくまでも冷徹に現実を見る。 人に憎まれるシビアな仕事をするオーエンにとって、それが生きる術(すべ)だ。

 こんなに違うんじゃ2人は結ばれようがないな、とつい先走ってしまうけど、じつは2人の関係は全然違う方向から破綻する。それはアルバの母親ヘイゼルの存在だ。
 よく、日本は母性原理、欧米は父性原理の社会といわれて、欧米映画で父と息子の葛藤が描かれることが多い。母 と娘のそれは珍しい気がする。

 ヘイゼルはアルバに執心する資産家に娘を取り持つことで、この町を出ようとする。 年下の愛人JJがアルバに気があることも、彼女の嫉妬や焦りを強めていたかもしれない。

 小さな田舎町から脱出したい・・・、それが若者だけではなく、中年女の願望であることが私には興味深い。
 ヘイゼル役のケイト・レイドは、娘を思い通りに動かそうとする女親の嫌らしさと、盛りを過ぎようとする女の哀しさがないまぜになり、文句なしのはまり役だ。

 ヘイゼルとアルバの母娘の確執は凄まじく、アルバは母親の鼻を明かすためにJJと結婚し、挙げ句に彼の金を盗んでオーエンの後を追ってニューオリンズへ出奔する。 一方、ヘイゼルは娘の所在を突き止めて、アルバがオーエンにプロポーズされた時に、JJとの経緯をばらして娘に仕返しをする。

 こうして家族は崩壊し、トッドソンに一人残された妹娘のウィリーが母、姉それぞれのその後を語る。淡々としたその調子がかえって人生の苦さを醸し出す。

 アルバの形見の破れた赤いドレスを着て、廃線の線路を無心に歩くウィリーを初めと終わりに配した構成が、映画の味わいを深めるように思えた。
  【◎△×】7

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