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アイ・イン・ザ・スカイ
世界一安全な戦場


2015年  イギリス  102分

監督
ギャヴィン・フッド

出演
ヘレン・ミレン
アラン・リックマン
アーロン・ポール
ジェレミー・ノーサム
フィービー・フォックス
バーカッド・アブディ

   Story
 無人偵察機を使い、戦場から遠く離れた場所で遠隔操作で行われる現代の戦争の形を描くサスペンス映画。

 ロンドン。イギリス軍のキャサリン・パウエル大佐(ヘレン・ミレン)は、国防相のフランク・ベンソン中将(アラン・リックマン)と協力し、 英米合同テロリスト捕獲作戦を指揮している。

 ケニア・ナイロビ上空の偵察用ドローンからの情報で、大佐は過激組織アル・シャバブのテロリストたちが自爆テロを企てていることを突き止める。

 大佐はアメリカの軍事基地のドローン・パイロットのスティーブ・ワッツ中尉(アーロン・ポール)に攻撃を命じるが、 決行間際に殺傷圏内にパンを売る少女がいることが判明する。
 このまま作戦を実行すれば民間人を巻き込むことになり、ロンドンの会議室では軍人や政治家たちの議論が紛糾する・・・。


   Review
 湾岸戦争が始まった頃、テレビに映る空爆がまるで映画の一場面に見えて、なんとも奇妙な感覚に囚われたことがある。 爆撃が夜だったこともあって、破裂する砲撃弾がまるで打ち上げ花火のように見えたのだ。
 けれども、あの炎の下で突然眠りを覚まされた人たちが逃げ惑っている、・・・そう思ったら、遠い安全な日本でそれを眺めている自分がひどく居心地が悪かった。

 戦争はどんな大義名分があろうと、また、いつの時代のどんな戦い方であろうと、結局は殺し合いだ。より多く殺したほうが勝ちになる。 そして人類の歴史はつねに戦争とともにあった。

 ハイテク化が進んだ現代は、遠隔操作による攻撃で “人を殺す” という感覚なしに相手を殺傷することが可能になってきた。 これは人間がモノになることを意味している。こんな恐ろしいことはない。

 この映画はまさにそんな現代の戦争がテーマになっている。無人攻撃機ドローンを使えば、自分の生命を脅かされることなく、安全な場所から相手を攻撃できる。 この時、相手はすでに「人」の意味を失い、ただの「モノ」になってしまうのではないか・・・。


 武装急進勢力アル・シャバブがケニアのナイロビにある隠れ家に集結するという情報を得たイギリス軍パウエル大佐は、テロリストたちを捕獲する準備に入る。
 当初はその後裁判にかける予定だったけれど、武装勢力がアジトに膨大な弾薬を隠していること、それを身体に巻きつけて自爆テロを企てていることが分かり、 急遽、アジトをまるごと爆破する作戦に変更する。

 これらの情報を得る小型ドローンを操縦するのは、アメリカ・ネバダ州にある米軍基地のドローン・パイロット。 そしてパウエル大佐が作戦を指揮するのはイギリス南部のノースウッドの町だ。
 つまり、作戦はアル・シャバブから攻撃される心配のない安全な場所で練られ、遂行されていることになる。

 やがて鳥型の小型ドローンでは情報収集に限界があることが分かり、 現地工作員(バーカッド・アブディ)に指示して、昆虫そっくりの超小型ドローンを家の中に入り込ませることになる。

 アジト周辺は武装勢力の兵士たちが絶えず警戒の目を光らせている。ドローンを操作する動きに不審を抱かれれば、工作員の身はたちまち危うくなる。 映画はにわかに緊迫感が高まり、戦争はどれだけハイテク化されても結局は生身の人間の殺し合いであることを、あらためて突きつけてくる。


 いよいよの時になって、事態は思わぬ展開になる。アジトの隣家の軒下で、近所の少女が母親の焼いたパンを売り始めたのだ。 作戦をそのまま実行すれば、少女は巻き込まれて死ぬことは明白だ。
 ここで2人のドローン・パイロットは攻撃用ドローンのボタンを押すことをためらう。彼らにとって少女が「モノ」ではなく「人」であることにホッとする。

 しかし事態はそんな人道論に安堵するほど甘くはない。ISの脅威を身に沁みて知っている私たちにとって、 これは、少女一人の命と自爆テロの巻き添えで失われるだろう多くの人命のどちらを取るのか、という苛酷な命題となって迫ってくるからだ。

 作戦実行部はこの判断をイギリス、アメリカの政府上層部に委ね、彼らはさらに上に預け、時間だけが経っていく。その間にアジト内では自爆テロの準備が着々と進んでいく。

 印象的なのは、政治家たちが判断を避けるのは、少女を犠牲にした場合の国際世論の批判を恐れて、ということだ。 責任を負いたがらない政治家体質はどこの国も変わらないんだな〜、とため息が出る。
 現代の戦争が抱える深刻なジレンマを突いた映画だ。
  【◎△×】7

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