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オペラハット


1936年  アメリカ  115分

監督
フランク・キャプラ

出演
ゲイリー・クーパー
ジーン・アーサー
ダグラス・ダンブリル
ジョージ・バンクロフト
ライオネル・スタンダー

   Story
 クラレンス・パディントン・ケランドの短編小説をもとにした、『或る夜の出来事』の監督・脚本コンビによるヒューマン・コメディ。 キャプラ監督は本作で2度目のアカデミー監督賞を獲得した。

 バーモント州の小さな町で油脂工場を営むディーズ(ゲイリー・クーパー)は、富豪の伯父の死で2000万ドルもの遺産を相続する。

 ニューヨークに出てきた彼にマスコミは注目し、女性記者ベーブ(ジーン・アーサー)がひそかに彼に近づく。
 欲に目のくらんだ故人の取り巻きたちも、あの手この手で遺産をかすめ取ろうと彼につきまとう。

 そんな中、ベーブを愛し始めていたディーズは彼女の素性を知って絶望し、不況の真っ只中で失業した農民たちに財産を分配すると発表する。
 彼の財産を狙う親戚は、伯父の顧問弁護士シーダー(ダグラス・ダンブリル)と結託し、騒ぎは裁判沙汰へと発展するが・・・。


   Review
 『オペラハット』という邦題から、オペラ好きの男女のラブコメディかな、なんて勝手に想像していたら、中身は『スミス都へ行く』(39) とそっくり。

 原題も “MR. DEEDS GOES TO TOWN” と、これまた『スミス都へ行く』の原題 “MR. SMITH GOES TO WASHINGTON” とほぼ同じ。 相手役のヒロインもどちらも同じジーン・アーサー。
 ・・・と初めは主人公ディーズがジェームズ・スチュワートのイメージに重なって困った。

 それでもディーズは、突然大富豪になった世間知らずの若者を食い物にしようとする者たちや、 田舎者を笑い者にしてやろうとする文士たちの偽善をきっちり見抜いて、やり返す。(時には相手を張り倒したりして、少々短気なところもあるけれど。)
 純真一途のスミスと比べると、だいぶん社会馴れしているというか、しっかりしている。


 そのせいか『スミス都へ行く』では「坊やの世話はまっぴら」なんていっていたジーン・アーサー演じるヒロインも、 本作ではそんな御託(ごたく)はおくびにも出てこない。 どころか、取材のためとはいえディーズを騙していることに罪悪感を抱いたりする。

 と、つい両方を比較しながら見てしまう私だけど、素朴なスミスは可愛かったけど、本作のお茶目なディーズもとてもチャーミングだ。

 考えごとをする時のくせは楽器のチューバを吹くこと。「ぼわ〜〜ん」という音がなんともいえずのどかだ。
 邸の階段を降りる時は、ちょいと辺りを見て誰もいないのを確かめるとスイーッと手すりを滑り降りる。やんちゃな男の子っていう感じ。 ついでに、ちょいちょいと女性の彫像の足裏を撫でたりして。

 広い玄関ロビーで声が反響するのに気づくと、使用人たちを集めて一斉に「あー・・・」とハモらせる。 一人で納得してさっさと引き上げちゃうんだもの、使用人たちはさぞ「??」だったでしょうね。

 フランク・キャプラ監督の映画を見ていると、いつも “古き良きアメリカ” という言葉が頭に浮かんでくる。
 それは日本人がかつてアメリカに対して抱いていたイメージであり、アメリカ人自身が自国に対して抱いていた誇 りでもあっただろうと思う。

 シンプルに夢を追うことの出来た時代は終わって、今は人も社会も (そして国際情勢も) ずっと複雑になっている。人間観もシリアスでシビアになった。

 キャプラ監督が描く理想主義は色褪せて今は時代遅れの感があるけれど、それだけに、楽天的なヒューマニズムに心が癒やされ、ほっとしたりもする。
 ゲイリー・クーパーはジェームズ・スチュワートと並んで “アメリカの良心” を感じさせる人だとあらためて思う。

 愛し始めていた女性が自分に関する特ダネを連発していた女性記者ベーブと分かり、がっくりと気落ちするディーズ。 すっかりやる気を失くして、彼を禁治産者にしようと親戚たちが起こした裁判でも、まったく反論しない。

 ところがベーブが自分を愛していると分かった途端、反撃に転ずる。
 1つ1つの行動がじつに素朴で分かりやすい。正直で誠実で、誰もが好きになれずにおれないキャラクターだ。

 裁判でディーズを「変人」と証言する老女姉妹の2人が面白い。故郷の町からやってきた懐かしい2人を見つめるディーズの優しい目。 自分にマイナスの証言にもちっとも動じない。
 そう、彼は知っているのだ、2人は「自分たち以外はみんな変人」と思っていることを。

 「裁判長は?」「変人よ」「じゃ、精神分析医は?」「もちろん変人」。自信を持っていい切る2人がなんとも愛らしくて、思わず笑ってしまった。
  【◎△×】7

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