HOME50音表午後の映画室 TOP




オリ・マキの人生で最も幸せな日


フィンランド/ドイツ/スウェーデン
2016年  92分

監督
ユホ・クオスマネン

出演
ヤルッコ・ラフティ
オーナ・アイロラ
エーロ・ミロノフ
ヨアンナ・ハールッティ

   Story
 60年代に活躍したフィンランド人ボクサー、オリ・マキの実話をもとに、16ミリフィルム、モノクロ撮影で綴ったハートウォーミング・ラブストーリー。 カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門でグランプリを受賞した。

 1962年、夏。フィンランドの首都ヘルシンキ。
 コッコラのパン屋の息子でボクサーのオリ・マキ(ヤルッコ・ラフティ)は、世界タイトル戦でアメリカ人チャンピオン、デビー・ムーアと戦うことになる。

 フィンランドで初の世界戦だけに国中の期待は高まる一方だ。
 オリは減量に取り組み、試合に向けて準備を進めるが、そんな中で幼なじみのライヤ(オーナ・アイロラ)に恋してしまう。

 練習に集中できないオリを見て、ライヤはそっと故郷コッコラに帰ってしまう。 それを知ってストレスがピークに達したオリはライヤを追ってコッコラに戻り、プロポーズするが・・・。


   Review
 フィンランドで初めて行われた世界タイトルマッチのボクサー、オリ・マキの話というので、同じ実在のボクサーを描いた『シンデレラマン』(05) を思い出した。
 アメリカの大恐慌時代、次期チャンピオンを目前に怪我で挫折したジム・ブラドックが、凄まじい貧困の中で、家族への愛に支えられて奇跡の復活を遂げる話だ。

 一方ボクシング映画といえば『ロッキー』(76)、こちらはフィクションだけれど盛りを過ぎたボクサーが恋人への愛をバネに世界チャンピオンとの試合に臨む。
 試合には敗れるものの15回を戦い抜き、満足感一杯でリング上から恋人の名を絶叫する姿は感動的だった。

 これらの映画を見ていると、ボクシングほど過酷なトレーニングと人間愛がぴったりマッチしたスポーツはないんじゃないかと思えてくる。


 ところが本作はちょっと趣きが違うのだ。そもそもトレーニング場面があんまり出てこない。
 世界戦に挑むオリのスケジュールは、記者会見やPRのための取材、撮影、イベントなどで埋め尽くされ、とても練習どころではないからだ。

 ボクシング界の実情って案外こうなのかな? もっともこれは1960年当時の話で、 今はトレーニングが最優先で、こうしたことは最小限に留めてるんでしょう。

 とはいえマネージャーのエリス(エーロ・ミロノフ)を責める気にはなれない。なにしろフィンランドで初めての世界戦なのだ。ぜひとも成功させたい。 それにはスポンサーの支援が必要だし、世間の注目も集めなければならない。と、涙ぐましいほどに奮闘するからだ。

 では当のオリどうかというと、どうやら世界戦よりも幼なじみのライヤが気になってならないらしい。
 これまでのボクシング映画のストイックな主人公たちからすると、心ここにあらずの風情がなんだか可笑しいし、面白い。

 ライヤとは前から半分恋人みたいな関係だけど、なんと記者会見の最中に、はたと「(ほんとに)恋してる」と気づいてしまうのだ。 おまけにオリはそれをマネージャーのエリスに打ち明ける。
 でもエリスはロッキーのマネージャーみたいに叱り飛ばしたりはしない。これまたのんびりしているというか、の どかというか・・・。

 オリはトレーニングをしていてもライヤのことが気にかかって仕方ない。
 それに気づいたライヤが、邪魔になったらいけない、と故郷のコッコラに帰ると、オリも彼女の後を追ってコッコラに帰ってしまう。

 スポ根映画とはまるっきり違う流れに戸惑いながらも、だんだん自分の気持ちに素直に行動する2人に親愛感が湧いてくる。
 そう、これはボクシング映画というより、ボクシングをモチーフにしたオリとライヤのラブストーリーなのだ。

 序盤、オリが自転車の前にライヤを横座りさせて、林道を行くシーンがとても素敵だ。木洩れ日の中を、懸命に自転車を漕ぐオリ。 ライヤはちょっと太めだから、小柄なオリは大変だ。細いタイヤが潰れそう。でも、そんな心配も無用なほど2人から幸せがあふれ出る。

 湖で石の水切り投げをしたり、ライヤがドボンと水に飛び込んだり・・・。子供のように楽し気な2人の自然な佇まいが素朴な滋味を帯びてくる。

 プロポーズを受け入れてもらい元気いっぱいヘルシンキに戻ったオリはトレーニングを再開する。 そしていよいよタイトルマッチ、普通なら最も感動的なクライマックスだ。
 ところが第1ラウンドは好調に滑り出したのに、第2ラウンドでオリはダウンを重ね、レフェリーストップで負けてしまう。

 なんともあっけない幕切れだ。それでもオリとライヤは幸せだ。湖畔で老夫婦とすれ違ったライヤは「私たちもああなるのかしら」という。 あるがままを受け入れ、寄り添う2人にほのぼのと温かい思いが湧いてくる。
  【◎△×】7

▲「上に戻る」



inserted by FC2 system