Story イスラエルによって何度となく大規模攻撃にさらされ、パレスチナ紛争の象徴ともいえるガザ。この地区出身のスーパースター、ムハンマド・アッサーフの実話の映画化。 亡き姉との約束を果たすため、スター歌手になって世界を 変えようと奮闘する少年の物語が綴られる。 2005年、紛争の絶えないパレスチナ・ガザ地区。 歌の才能に恵まれたムハンマド(カイス・アタッラー)は、姉ヌール(ヒバ・アタッラー)に後押しされて、友人と一緒にバンドを始める。 カイロのオペラハウスに出るという夢の実現のために、人々に歌を披露してお小遣いを稼ぎ、次のステップに進もうとした矢先、ヌールが重病に倒れて亡くなってしまう。 2012年、タクシー運転手として働くムハンマド(タウフィーク・バルホーム)は、姉との約束を果たそうと、 テレビの人気オーディション番組 “アラブ・アイドル” への出場を決意するが・・・。 Review パレスチナのガザ地区が舞台。私には、中東戦争で生じた難民が多く住む地域、イスラエルによって何度も攻撃されてきたところ、という程度の漠然とした知識しかなく、 どんな映画だろうかと思った。 冒頭、年長の少年たちに追いかけられて、子供が2人、雑踏のなかをすばしこく逃げ回る。 『スラムドッグ$ミリオネア』(08) のオープニングもそうだったっけ、子供はいつでもどこでも元気だな、とちょっと愉快になってくる。 2人とも男の子かと思ったら、リーダーシップを取る子がじつは女の子なのに驚いた。それが姉のヌールで、後にくっついて逃げるのが弟のムハンマドだ。 元気がいいのはここだけではない。楽器を買うために、2人は友達のウマルとアハマドを誘って商売を始める。 男の子たちが磯に小舟を出して魚を取り、ヌールが浜辺で売るのだ。 ところが自転車に乗った男が金を払わずにいってしまい、それを知ったムハンマドは男を追いかける。 走る走る走る、自転車と競走だ。ついに追いついて体当たりを食らわし、代金を払わせてしまう。 2人がなぜ楽器を買おうとするのかというと、ムハンマドが素晴らしく声がよくて、歌も上手いので、姉のヌールは弟をカイロのオペラハウスに出してスターにし、 世界を変えたいという夢を持っているからだ。 そのために闇商売の男に中古楽器の斡旋を頼んだり、バンドを組んで結婚パーティで歌ってお金を稼いだり・・・、と見たところ小学生くらいなのに、なんとも逞しい。 アラブ独特の声の出し方や節回しのせいもあって、ムハンマドがどれくらい声が良くて歌が上手いのか、ほんとのところ私にはよく分からないけど、 前半はこんな具合で、明るいトーンで話が進む。 ところが、ヌールが腎臓病で倒れ、人工透析を受けながらも容態が悪化して、亡くなってしまうという思いがけない展開になる。 時間は一気に2012年に飛んで、愛らしい美少年だったムハンマドが、今はボサボサ髪のむさ苦しいタクシー運転手になっている。 ガザの町はどこもかしこも瓦礫の山、空爆の跡がそのまま放置されている。 前半、ほとんど描かれなかった廃墟と化した町の様相はムハンマドの心象風景そのままのようだ。 後半では、そんな彼が再び音楽への思いを取り戻し、姉ヌールとの約束を果たすためにオーディション番組 “アラブ・アイドル” に挑戦する姿が描かれる。 開催場所はエジプト・カイロのテレビ局だ。ガザに住むムハンマドはビザを入手できない。カイロに行きつくまでがまず一苦労だ。 やっとたどり着いても、応募のためのチケットがない。次々に待ちうける状況に驚いてしまうけれど、ここでもムハンマドは少年時代のすばしっこさを発揮し、 運にも助けられて、難局を乗り越えていく。 一次、二次と予選を勝ち抜いていく間に、ムハンマドの髪型や服装がどんどん洗練されて、格好良くなっていくのに嬉しくなる。 彼の心の張りの表われなんでしょうね。 最終選の開催地はレバノンのベイルート。彼がこの時に歌う “故郷を思う歌” は掛け値なしに素晴らしい。切々と胸を打って、正直、感動しました。 ラストに実写映像が出てくる。まず、ムハンマド本人がトム・クルーズ似の超ハンサムなのにびっくり。 そして彼の優勝に熱狂する人々の姿に、ガザがパレスチナの苦難のシンボルだからこそ、そこから生まれたサクセスストーリーに人々の希望と喜びが溢れるのを感じた。 【◎○△×】7 |