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ウォールフラワー


2012年  アメリカ  103分

監督
スティーヴン・チョボスキー

出演
ローガン・ラーマン
エマ・ワトソン
エズラ・ミラー
メイ・ホイットマン
ジョニー・シモンズ
ポール・ラッド

   Story
 内気な高校1年生が書いた手紙という書簡体形式のベストセラー小説を、原作者のスティーヴン・チョボスキー自 らが脚本・監督を手がけた青春ドラマ。
 入学直後から周囲に馴染めず、息をひそめるように学校生活を送る思春期の少年の揺れ動く心情をみずみずしく描いている。

 1991年、シャイで内気な16歳の少年チャーリー(ローガン・ラーマン)は高校に入学する。

 友だちが出来ず、人の輪に入れない “壁の花” 状態のチャーリーだが、 上級生のパトリック(エズラ・ミラー)、サム(エマ・ワトソン)兄妹との出会いをきっかけに、平凡な日常が変わり始める。

 刺激的なパーティ、深夜のドライブ、音楽や文学、そして初めて知る友情や初恋に胸をときめかせるチャーリーだが・・・。


   Review
 高校生生活を描いた映画というとまず思い出すのは『アメリカン・グラフィティ』(74) だ。 1960年代初頭が舞台。まさに私と同年代の高校生たちが主人公で共感する部分が多かった反面、 深夜、車を流してのボーイハントやガールハント、ダンスパーティ、大人顔負けのセックス付きの恋愛、とあまりに当時の日本とはかけ離れた高校生生活に驚いたものだった。

 それから半世紀以上がたった本作はセックス描写はさらにリアルになり、ドラッグに性的マイノリティの問題も加わって、一層濃く激しくなっている感じだ。
 原作小説はアメリカでは青少年向け推奨図書となっているそうだ。ということは、こうした高校生生活はけっして特殊ではなく、彼らにとって身近な事柄なのだろうか。

 学園生活はずいぶん違うけれど、自意識過剰になったり、人とうまく付き合えない、自分は浮いていると思ったり、 思春期特有の生きづらさは洋の東西を問わず今も昔も普遍的なものに思える。

 ストーリーはそんな引っ込み思案で傷つきやすくナイーブな新米高校生チャーリーが、架空の話し相手 “トモダチ” に手紙を書くという形で進んでいく。
 彼にとって “トモダチ” だけが唯一の心を許せる相手なのだ。

 周囲から注目されないように (そうすればイジメのターゲットにならずに済む) 心を閉ざし、用心深く孤立するチャーリー。
 国語の授業では、先生(ポール・ラッド)の質問の答えが分かっても手を上げたりはしない。「知ってるよ」という笑みを口元に浮かべるだけだ。

 学校のホームカミング・パーティではみんなが踊るのを壁際で見つめる。 “壁の花” って誘う人がいないモテない女の子のことと思っていたけど、本作ではチャーリーのことなのだ。

 けれど、奔放な上級生の兄妹パトリックとサムと知り合い、彼らの仲間に加えてもらったことで、チャーリーが “トモダチ” に書く手紙は間遠になっていく。 理由は「(これからは) 社会参加で忙しくなるから」。
 「社会参加」という表現が微笑ましい。自分の殻から踏み出そうとする彼意気が伝わってくる。

 それぞれに問題を抱えるパトリックとサムだけれど、それに縛られず自由に生きる2人との交流で、チャーリーも少しずつ変わっていく。 例えば、いち早く作家志望のチャーリーの資質に気づき、応援してくれる国語の先生の授業では、おずおずと、でも思い切って、手を挙げる。

 パトリック、サムと3人で深夜ドライブでトンネルを走るシーンが印象的だ。
 サムが荷台に立って大きく両手を広げ、風を全身に受ける。それを驚きをもって見つめるチャーリー。トンネルの向こうに街の灯りが美しくまたたく。 「無限」の開放感があふれ、チャーリーは「はじめて居場所を見つけた」と感じるのだ。


 チャーリーには、理解のある父母と気心の知れた兄姉、“はみ出し者” と自称する規格ハズレだけれどよい仲間がいて、一見何も問題がないようだけれど、 じつは重い秘密を持っていることが徐々に分かってくる。そのためにバランスを崩して入院しなければならないことも起きる。

 その辺りの演出がやや言葉足らずで説得力に欠けるのが惜しいけれど、映画のラストのドライブでは、トンネル内で荷台に立ち、大きく両手を広げて風を受けるのはチャーリーだ。 もう大丈夫、一人で立っていける、そんな晴れやかな自信が感じられる。

 パトリックとサムは高校を卒業し、チャーリーは進級して “トモダチ” への手紙を卒業する。これからは支えなしで大人への道を歩んでいくのだ。清々しいラストだ。
  【◎△×】7

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