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15時17分、パリ行き


2018年  アメリカ  94分

監督
クリント・イーストウッド

出演
スペンサー・ストーン
アンソニー・サドラー
アレク・スカラトス
ジュディー・グリア
ジェンナ・フィッシャー

   Story
 クリント・イーストウッド監督が、2015年8月にフランスの高速鉄道で起きた無差別テロ事件を映画化。
 偶然列車に乗り合わせ、犯人を取り押さえて大惨事を阻止した3人のアメリカ人青年がそのままキャスティングさ れ、自らを演じている。

 アメリカ空軍兵スペンサー・ストーン、オレゴン州兵アレク・スカラトス、大学生アンソニー・サドラーはキリスト系学校の幼馴染だ。

 厳格な学校の規律が守れず問題児だった3人。
 互いに友情を深め、大人になってからも連絡を取り合って、初めてのヨーロッパ旅行に出かける。

 イタリア、ドイツ、オランダと楽しい旅を続けた3人は、2015年8月21日、アムステルダム発パリ行の高速鉄道に乗る。 列車がフランス国境内に入った時、イスラム過激派の男が自動小銃を発砲し、車内はパニックに陥る・・・。


   Review
 2015年、アムステルダム発パリ行きの高速鉄道で銃乱射事件が起きた。しかし列車に乗り合わせた3人のアメリカ人青年が犯人を取り押さえ、惨事に至らなかったという。

 映画化にあたってクリント・イーストウッド監督はいろいろ面白い試みをしている。 まず、テロを阻止した3人をそのままキャスティングして自らを演じさせ、実際の乗客も多数起用したこと。
 みな恐怖を体験した当事者たちなのに、ずぶの素人とは思えないほど上手い。中でも主役3人の堂々たる演技には舌を巻いた。

 さらに映画の構成が意外だ。冒頭、大きな荷物を背負った男が駅に入り、エスカレーターでホームに上がり、列車に乗りこむ。顔は見せず、映るのは足だけ。禍々しさが漂う。
 アメリカ同時多発テロでハイジャックされた航空便を描いた映画『ユナイテッド93』的な成り行きを予想していると、 画面は主人公のスペンサー、アレク、アンソニーの少年時代に切り替わる。


 3人は幼馴染で、しょっちゅう校長室に呼び出される問題児だ。
 といってもどこが問題児なのか首を傾(かし)げてしまう。 担任は「落ち着きがない、集中力がない、発達障害だ」「シングルマザー家庭に問題がある」と決めつけるけれど、ただの元気のいい男の子たちにしか見えない。

 他の教師たちも高圧的で口答えを許さず、すぐ「校長室に行け」と命令する。
 硬直化した教育は息苦しくなるけれど、3人はめげることなく、屈託のない日々を過ごす。

 アンソニーが転校し、アレクは父親に引き取られて、3人はバラバラになるけれど、友情は変わらない。
 そして成人し軍隊に入ったスペンサーとアレク、大学生になったアンソニーは、休暇を利用してヨーロッパ旅行に出かける。 その先々でのエピソードがこれまた現代の若者らしく、屈託がなく楽しい。

 ストーリーの軸になるのはスペンサーだ。
 「これまで何も成し遂げたことがなく、努力したこともない」という彼が空軍パラレスキュー隊員になるという目的を持つのは、 バイト先でたまたま聞いた「人の命を助けるのが仕事」という言葉に引かれたからだ。

 それからがむしゃらな涙ぐましい努力の数々。初めて本気になった彼に笑いながらも共感させられる。

 ところが空軍入隊試験は合格したものの、 肝心のパラレスキュー隊は奥行き知覚検査で不適格になる。「初めて努力したのに失敗した」「人の役に立ちたかったのに」と落ち込むスペンサー。

 でも、代わりに配属された SERE(防衛救急) 指導官の講習が、偶然遭遇したテロ事件で役に立つのだから運命というのは分からない。

 合間合間に、列車内のパニックに陥った乗客の様子が挿入され、同時進行の臨場感を醸し出す。
 とはいえそれもごくごく短いカット・インだ。そしていよいよ列車テロの場面になるけれど、緊急事態の描写は意外にあっさりしている。

 こんな具合で、テロもの映画と思うとやや物足りなさがあるけれど、“特異な事件に遭遇したごく普通の若者たち” に映画の視点を変えると、 それは同様に私たちがいつどこで出遭ってもおかしくない。

 犯人についての具体的言及や、スペンサーに向かって発砲された自動小銃がなぜ空砲だったのか、などの説明もない。 それがかえって現場に居合わせた乗客のリアルな体験と日常を切り裂くテロの突発性を印象づける。
 気負いのないイーストウッド監督の演出のゆえか、あたかも自分が乗客の一人のように感じられた。
  【◎△×】6

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