HOME50音表午後の映画室 TOP




Dear ダニー 君へのうた


2015年  アメリカ  107分

監督
ダン・フォーゲルマン

出演
アル・パチーノ
ジェニファー・ガーナー
ボビー・カナヴェイル
アネット・ベニング
クリストファー・プラマー

   Story
 ジョン・レノンが新人ミュージシャンに宛てた手紙が、数十年を経て届いたという実話から着想を得たドラマ。
 惰性の中で生きていた大物ロック・ミュージシャンが、ジョン・レノンが新人だった自分に送っていた手紙を読ん だのをきっかけに、人生を見つめ直す姿を描く。

 ミュージシャンとしての盛りを過ぎ、何年も新曲を書いていないダニー(アル・パチーノ)だが、ステージでは往年のヒット曲を歌えば満員の観客は大喜び。

 ぬるま湯につかるような日々に空しさが募るある日、マネージャーのフランク(クリストファー・プラマー)から古い手紙を見つけたと渡される。
 それは駆け出しだった頃の自分にジョン・レノンが送ってくれたもので、新人に対する励ましの言葉が綴られていた。

 人生をやり直そうと決意したダニーは小さなホテルにこもって30年ぶりの作曲に取り組み始める。
 さらに、一度も会ったことのない息子トム・ドネリー(ボビー・カナヴェイル)を探し出して訪ねるのだった。


   Review
 この映画は、新人フォーク・シンガーに宛ててジョン・レノンが書いた手紙が、34年を経て本人に届いた、という実話にインスピレーションを得たものだそうだ。 ストーリーそのものはフィクションとのこと。しかし、この実話がうまく生かされて、盛りを過ぎたロック・シンガーの再生を描いた心温まる佳作になっている。

 ロック・シンガー、ダニーを演じるのはアル・パチーノ。 会場を埋め尽くしたファンの歓声に応えて、腰を振り肩を揺すりながら、「ヘイ、ベビードール〜!」なんてかつてのヒット曲を歌う姿に吹き出しそうになる。

 どこに行っても、会った人はすぐ「あ、ダニー・・・!」と驚いたり感動したりするのを見ると、盛りを過ぎたとはいえ、彼がどれほどの人気歌手かが分かる。
 この設定が効いて、いつまでも若い頃のヒット曲を歌うことを求められ、それで通ってしまう暮らしに心のハリをなくし、 若い愛人の浮気に目くじらを立てる気も起きない心の倦怠がまざまざと伝わってくる。パチーノがうまい。


 そんなダニーが、43年前、ジョン・レノンがデビューしたての彼に宛てて書いた手紙を手に入れる。 いろいろな事情で彼に届かなかったのをマネージャーで親友のフランクが見つけたのだ。
 新人ミュージシャンを励ますジョンの手紙を読むダニー。この時に流れる “イマジン” がほんとにいい。静かに胸を浸し、感動する。

 ダニーは酒とドラッグ漬けの生活を改めて、曲作りのためにホテルにこもる一方で、長年省みなかった息子トムを探し出して会いにゆく。
 トムは突然現れた身勝手な父親を拒否する。「そりゃそうだよね〜」と同感。しかし、彼が難病を抱えていることが分かり、にわかにストーリーの緊迫感が高くなる。

 けな気な妻(ジェニファー・ガーナー)と愛らしい娘、とトムの家族がじつに魅力的。でも娘は “多動性” の障害を持ち、妻は第2子を妊娠中。 こんな状況では、トムは病気を妻に打ち明けられない。
 貧しくても幸せな暮らしに見えたトムだけに、一体どうなるんだろうと思ってしまう。

 ここでダニーが長年の罪滅ぼしのように父性愛を発揮し始める。

 豊富な財産をつぎ込んで、孫のために障害専門の学校を見つけ、コネを使って強引に入学させ、息子の診察には迷惑がられながらも毎回付き添う。
 不器用な懸命さが微笑ましくて、クスリとさせられる。

 最終の検査結果を聞くために診察室で待つトム。
 ダニーは「面白いことに気づいた。ドアを開けるドクターの第一声が “ドネリーさん” ならいい話じゃない。 “トム” ならいい知らせだ」「ドクターが “トム” というのを願おう。大丈夫。すべてうまくいく」と励ます。

 コンコンとノックの音。どちらだろう、とこちらまでドキドキする。
 ドアを開けたドクターの第一声、「検査結果が出たよ、トム!」。ここでストンと終わるラストがいい。

 ダニーを支える超ベテランの脇役陣が素晴らしい。
 ダニーを気にかけ心配しながらも、必要以上には踏み込まないホテルの女性支配人のアネット・ベニング (ダニーとのあうんの呼吸の掛け合いは、まるで上質の漫才だ) 、 長年のダニーの相棒で、ここぞという時には心憎い助け舟を出すマネージャーのクリストファー・プラマー。

 ・・・2人ともじわじわと人生の年輪が滲み出てくるのが味わい深かった。
  【◎△×】7

▲「上に戻る」



inserted by FC2 system