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Mommy/マミー


2014年  カナダ  139分

監督
グザヴィエ・ドラン

出演
アントワン=オリヴィエ・ピロン
アンヌ・ドルヴァル
スザンヌ・クレマン
パトリック・ユアール

   Story
 『マイ・マザー』(09) で鮮烈なデビューを果たして以来毎年のように作品を発表し、世界の注目を集める若手監督グザヴィエ・ドランが、 母と息子の愛と葛藤を描いたヒューマンドラマ。
 映画の画面のアスペクト比 (タテヨコ比) が1対1というユニークな画面構成を用いている。

 発達障害を抱える15歳のスティーヴ(アントワン=オリヴィエ・ピロン)は、施設で放火騒ぎを起こし、退所させられる。

 夫の死後、ギリギリの暮らしをする母親ダイアン(アンヌ・ドルヴァル)は、スティーヴを引き取ったものの、 一度キレると手に負えなくなる息子に手を焼き、疲れ切ってしまう。

 そんな中、母子は近所に住む休職中の高校教師カイラ(スザンヌ・クレマン)親しくなる。
 彼女との交流でダイアンとスティーヴの暮らしは少しずつ落ち着きを取り戻していくが・・・。


   Review
 17歳の時に脚本を書き、19歳で主演・監督した『マイ・マザー』でいきなりカンヌ国際映画祭の監督週間部門に選ばれて、大きな話題になったグザヴィエ・ドラン。 行きつけの劇場ロビーに貼られたポスターの彼は、憂愁の翳りを帯びた美青年で、“美しき早熟の天才” と言われるのも納得と思ったものだ。

 とはいえ、母親に対する複雑な葛藤がテーマと聞くと、辛辣に批判されているのなら母親族の一人たる私としては辛いな、と二の足を踏んでしまう。
 本作は母子関係を見つめる視点が、息子から母親に移されているという。ドラン監督は息子を、ひるがえって母親を、どんなふうに描いているのだろう・・・、と興味が湧いた。

 映画冒頭、いきなり車の衝突事故が起こる。 降りてきた女性は、中年を過ぎかかっているけれどパチパチの派手なジーンズにザンバラ髪の若作り、施設に息子を迎えに行くダイアンだ。相手を汚い言葉で罵る。
 施設では女性職員に息子のしでかしたことを説明されて、ふてくされたように皮肉まじりの返答。
 それでふと気づいた。画面がイヤに狭い。彼女の悪態に圧迫感を感じるのはそのためだ、ということに。


 画面のタテヨコ比が1対1なのだ。 しかしシネマスコープの横長場面を見慣れた目には、正方形というよりも、むしろ縦に細長く見える。スマホ画像のような窮屈さ、息苦しさだ。

 まず、全体像が見えない。(だから、一部分を覗き見している感覚になる。) 望遠を使ったみたいにこちらから奥のほうを深く小さく撮る。 人物を撮る時は被写体が極端に近くなる。
 ふつうの構図を外した撮り方が、まるで主人公のダイアンと息子スティーヴの関係を凝縮しているかのようだ。

 スティーヴは ADHD (注意欠陥多動性障害) の少年で、一旦キレると何をしでかすか分からない。 ダイアンが彼を引き取ることになったのも、入所している施設に放火したからだ。

 怒り始めると手がつけられなくなる息子を抑えようとするダイアンも、我が強く情緒不安定とくるから、2人のぶつかり合いは壮絶だ。 そんな行き場のないやりきれなさが四角い画面の中に押し込められている。
 ドラン監督の独特の技法と映像感覚に驚いた。

 煮詰まった母子関係・・・、そこに一筋の風が通るように現われるのが、隣人で今は休職中の高校教師カイラだ。
 彼女は以前住んでいたケベックで衝撃的な出来事に遭ったらしく、その精神的なショックから吃音になって、家に引きこもっている。


 しかしダイアン母子と出会ってからは、2人と親密に交わる中で次第に心の緊張が溶けていく。
 一方、ダイアンとスティーヴもカイラとの交流で濃密すぎる母子関係にバランスを取り戻していく。

 3人が顔を寄せてスマホで自撮りするシーンの柔らかな光が忘れがたい。
 その直後の、スティーヴが両手で四角い画面をこじ開けて、シネマスコープ・サイズに広がる開放感!  両手を広げて「自由だ! 僕は自由だ!」と叫びながら、スティーヴはスケボーで道路を走る。

 しかし放火事件が訴訟になり、追い詰められたダイアンの心象を表わすように、画面はまた1対1になる。

 それがもう1度ワイドになる場面がある。 それはダイアンがある決断を下した後だけに、彼女の夢、願望 (あるいは妄想) が広やかな画面に幸せな笑顔で溢れて、切なく哀しい。
 当時まだ25歳のグザヴィエ・ドラン監督がここまでダイアンの心情に寄り添うシーンを作ったことに驚いた。
  【◎△×】7

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