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ヴェルサイユの宮廷庭師


2014年  イギリス  117分

監督
アラン・リックマン

出演
ケイト・ウィンスレット
マティアス・スーナールツ
アラン・リックマン
スタンリー・トゥッチ
ヘレン・マックロリー

   Story
 17世紀のヴェルサイユ宮殿を舞台に、宮殿の増改築計画で庭園を任された実在の建築家アンドレ・ル・ノートル と、ある女性庭師の出会いを描く歴史ロマンス。
 アラン・リックマンが『ウィンター・ゲスト』(97) に続いて2度目の監督を務めている。

 1682年フランス。国王のルイ14世(アラン・リックマン)は、国の栄華のシンボルとしてヴェルサイユ宮殿の増改築を計画する。

 庭園を設計するのは、国王の庭園建築家アンドレ・ル・ノートル(マティアス・スーナールツ)。 そして、野外舞踏場 “舞踏の間” を任されたのは、サビーヌ(ケイト・ウィンスレット)という無名の女性庭師だった。

 調和の中にわずかな無秩序を取り込む斬新なアイデアのサビーヌと、伝統と秩序を大切にするアンドレ。
 ことあるごとに衝突しながらも、2人は徐々に互いを認め、惹かれ合っていく。


   Review
 本作で取り上げられている「舞踏の間」というのはヴェルサイユ宮殿に実在する庭園なのだそうだ。 そうと知っていれば、昔フランス・ツアーでヴェルサイユ宮殿に行った時、ちょっと覗いてみたかったな・・・。

 じつは私は、ヴェルサイユ宮殿に限らずヨーロッパの邸宅によくある、左右対称の幾何学的で人工的な庭の良さがよく分からない。 “完璧な美” とか “調和” を表しているのかと思うけれど、一分の隙きもない造形がいささか息苦しい。やはり自然の中の緑やちょっと破調があるほうが、私には安らげる。

 で、調和にわずかな破調を取り込んだ「舞踏の間」だけれど、それを作ったのは、サビーヌ・ド・バラという架空の女性庭師に設定しているのがうまいと思う。
 一般に男性は力関係の上下とか、伝統という枠組みに縛られて、自由な発想がしにくく、女性は社会的な枠から外れている分、柔軟だったり、 自由だったりするところが多いように思えるからだ。


 国王の庭園である以上、伝統 (という名における国王の権威) から全く外れることは出来なくても、調和や秩序の中に、ほんの少し、「破調」を持ち込む。 緑や水を平面ではなく立体の中で造形し、動かす。こうした発想は、現代の私が思う以上に当時、斬新なアイデアだったのだろう。

 そして、国王付きの庭園建築家アンドレ・ル・ノートルが庭師募集の面接に応募してきたサビーヌの設計図を見て、庭作りの考え方が大きく違うことで対立しながらも、 結局彼女の案を採用するのは、彼の中にもそうした「破調」に対する密かな思いがあったからではないかと思う。

 では、国王はどうなんだろう・・・。絶対王政の頂点に立つルイ14世だ。彼の意向に逆らうことは許されない。

 本作の面白いところは、サビーヌが偶然に出会う国王が、権威の象徴たるカツラを取った素の姿であることだ。
 植裁を調達しに郊外の植木園を訪れたサビーヌは、中年の男性がポツンと寂しげにいるのを見かけて、植木園の持ち主の造園家カンティニと勘違いする。

 勿論、途中でハタと気づくけれど、それまでの彼女の飾り気のない態度に、王は人としての安らぎを感じたのではないかと思う。

 王妃を亡くしたばかりの国王は、権威を繕わなければならない宮廷では悲しみをそのまま表わせなかったのだろう。
 そしてサビーヌもじつは大きな悲しみの過去を背負っていることが、合間合間でさり気なく示される。

 ともに喪失の傷手を抱えた2人が人として心を通わせ、語り合うこのシーンはとても印象深い。 こうして王はサビーヌの作る庭の魅力を知り、サビーヌは王によって宮廷の中に居場所を得ることになる。

 映画ではル・ノートルとプライドの高い妻(ヘレン・マックロリー)との冷え切った夫婦関係や、妻の嫉妬によるサビーヌの庭作りへの妨害が描かれ、 ストーリーのメリハリになっている。

 ラストに現れる、広大なベルサイルの庭園の片隅の、豊かな緑に包まれた愛らしい「舞踏の間」の俯瞰映像は、王とサビーヌが悲しみを乗り越え、 サビーヌはル・ノートルとともに新しい人生を踏み出して行くことを感じさせた。
  【◎△×】7

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