バッド・ジーニアス |
危険な天才たち |
Story タイの高校生を主人公にカンニングをテーマにしたクライム・サスペンス。 天才的頭脳を持つ女子高生が試験中に親友をカンニングで助けたことをきっかけに、大がかりなカンニング・ビジネスに乗り出すサマを描く。 頭脳優秀の女子高生リン(チュティモン・ジョンジャルーンスックジン)は、学業成績がスバ抜けていることから名門進学校に特待生として転入する。 さっそくお金持ちの娘グレース(イッサヤー・ホースワン)と仲良くなるが、グレースは勉強が苦手だ。 試験でこっそり彼女に解答を教えて助けてやったことから、グレースの恋人パット(ティーラドン・スパパンピンヨー)の発案で、 リンはカンニングで代金をもらうというビジネスを始める。 しかしもう一人の秀才特待生バンク(チャーノン・サンティナトーンクン)に気づかれてしまい・・・。 Review そういえば以前、中国で携帯を使った集団カンニング事件があったのを思い出した。本作の発想の元はこの事件らしい。 本国タイで大ヒットしたということは、、タイの受験事情も似たりよったりなのかな・・・。 アジアの受験競争の過熱ぶりは凄いというから、こうしたことは中国に限らず (日本も含めて) 起こっていることなんだろうな、と思ったりする。 主人公リンは一重瞼のきりっとした顔がいかにも頭脳優秀そうだ。 演じるチュティモン・ジョンジャルーンスックジン (わ、長くて覚えきらない) は元モデルで演技経験のない人らしいけれど、表情の変化がじつに自然でいい。 大仰なところは一つもないのにその時々の感情が素直に伝わってくる。 彼女を見いていると、「カンニングは絶対ダメ」と思っているのに、いつの間にか成功してほしいと思ってしまっている。 リンが通っている高校は名門とはいえ必ずしも頭のいい生徒ばかりではないようだ。親の金(賄賂とか裏口入学とか)やコネで入学しているので、成績がついていかない。 それでもおっとり育っているので性格は悪くない。 苦労知らずのいいとこの坊ちゃん、嬢ちゃん、・・・うーん、どこかの国の元ファーストレディを思い出したりして・・・。 グレースもそんな一人。すぐリンと仲良くなり、「勉強を教えて」なんて無邪気に頼む。リンもつい面倒を見、それが発展してカンニングの手伝いまでしてしまう。 気が良くて性格も少々ユルいグレースは、それを恋人パットにいっちゃった。 パットは半分は自分も楽して点を取りたい、半分はもっといいことを思いついた、とカンニング商売をリンに持ちかける。 軽い気分で始まったことがだんだん大ごとになっていく。危なかしくてハラハラさせられる。 リンが一線を超えてしまったのは、表面きれいごとを言う学校の偽善に義憤を覚えたためだろうし、 カンニングに気づいて学校にチクったバンクも、正義感から不正を見過ごせなかったためだ。2人とも若者らしい潔癖さがはじまりだ。 それがアメリカ留学のための世界共通試験 STIC でカンニングをするという、大がかりなプロジェクトに発展していく。 現場にいない受験生にどうやって解答を教えるのか、という方法はリンが考えだし、リンとパットが本国タイで協力体制を敷き、バンクまで巻き込んで、ことは動き出す。 世界で最初に試験が行われるシドニーに舞台が移ってからは、ハラハラドキドキのし続けだ。 しかし私にとってのクライマックスはリンとバンクの帰国後の明暗だ。カンニングがばれてすべてを失ったバンク。 彼はまじめに生きることのバカらしさを骨身に沁みて知ったのではないかと思う。 勉強が出来ても貧乏では報われないし、金があれば不正があっても見逃される、そんな社会の仕組みに気づいたバンクの変容は衝撃的だ。 彼はその優秀な頭脳を使ってこれからしたたかに図太く生きていくのだろう。 しかし、カンニングが成功したリンにも変化は起きる。彼女は真っ当に地道に生きることの価値にあらためて気づくのだ。それには父親の存在が大きい。 帰国したリンが、空港に出迎えた父親のへんてこな勘違いに一気に緊張がほぐれ、顔をくしゃくしゃにして抱きついて泣きだすのに胸がぐっとした。 ラストのリンの決意に寄り添うのも、この “ほのぼのパパ” なのだ。カンニングがテーマのちょっと変わった映画、社会の不公正を衝きながらも説教臭くない。面白かった。 【◎〇△×】7 |