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ベイビー・ドライバー


2017年  アメリカ  113分

監督
エドガー・ライト

出演
アンセル・エルゴート
ケヴィン・スペイシー
リリー・ジェームズ
ジョン・ハム、CJ・ジョーンズ
ジェイミー・フォックス
エイザ・ゴンザレス

   Story
 『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』(07) などのイギリスの鬼才エドガー・ライト監督が、 強盗の逃亡を助ける天才ドライバーの運命を描いたクライムアクション・ドラマ。

 ベイビー(アンセル・エルゴート)は天才的なドライビングテクニックを買われ、犯罪組織の逃がし屋として働いている。

 幼い頃に交通事故で両親を亡くし、その後遺症で耳鳴りに悩まされている彼は、iPod でいつも音楽を聴いている。
 ドライビングテクニックはそれによってさらに研ぎ澄まされるのだ。

 ウェイトレスのデボラ(リリー・ジェームズ)と知り合い恋に落ちたベイビーは足を洗おうとするが、 組織のボス、ドク(ケヴィン・スペイシー)には彼を手放す気はなかった。
 次の仕事に取りかかるベイビーだったが・・・。


   Review
 カー・チェイスといえばアメリカ映画のお手のもの。 いろんなパターンが出てきてそのつどドキドキワクワクさせられるけれど、本作のオープニングのカー・チェイスはとびきり上等だ。

 主人公のベイビーは強盗の逃走を手助けする天才ドライバー。仲間を待つ時も逃走する時も、いつもイヤホンで音楽を聴いている。 それがそのまま画面に流れ、観客はベイビーと音楽の一体化を一緒に体感することになる。
 彼の運転テクニックは音楽とチューンナップする時冴えに冴え、どんな困難な現場からも追っ手を振り切って逃げ切ってしまう。

 仕事の後はいつもベイビーは仲間のためにコーヒーを買いに行く。
 街路を行く彼を追う長回し。軽快な足取り、はしゃいだ表情、おどけた仕草の一つ一つが彼の充実感をリアルに伝えてくる。

 ところが次の仕事で仲間となったバッツ(ジェイミー・フォックス)は人を殺すことを何とも思わない凶悪な男だった。 殺人を目の当たりにして動揺するベイビー。彼の運転テクニックに乱れが生じる。

 仕事後のコーヒーを買いにゆく時の暗い表情が印象的だ。この辺りから彼の人生が少しずつズレ始める。
 仕事を仕切る裏世界の大物ドクがベイビーを手放す気がなかったことが、このズレをさらに大きくする。

 元はと言えば、ベイビーが麻薬を積んだドクの車を盗み、彼が被った大損の穴埋めのために強盗の逃走専門のドライバー役を引受けさせられたのが始まりだ。
 ドクへの借金完済後はフリーのはずだった。 ベイビーは里親ジョー(CJ・ジョーンズ)の助言に従ってピザ配達の仕事についてまっとうな道を歩こうとしていたのだけれど、ドクが脅しをかけて、 ベイビーを留まらざるを得なくしたのだ。

 登場人物たちがみなみ魅力的だ。まずベイビーとダイナーのウェイトレス、デボラ。
 ベイビーは無口、でもそれが思慮深く見えたりもする。幼い頃に事故死した母親の面影を追い続けるマザコン坊やだ。 黒メガネと音楽で外界を遮断し車にこもる彼は、まるで母の胎内の “赤ん坊 (ベイビー)” のよう。


 一方、デボラはウィットに飛むキュートな女の子だ。母親が病死しベイビーと同じ寂しさを抱えるけれど、懐ろ深く彼を受け止める母性性がある。
 2人とも美男美女というわけではないけれど、口元に残るあどけなさが可愛らしい。

 次は里親ジョー。聾唖で車椅子の老人だ。ベイビーがよくない仕事をしているのを察して、いつも心配している。 郵便局襲撃が失敗し、仲間割れから凄惨な殺し合いが起こった後、ベイビーはデボラを連れて逃走しようとするけれど、 その時に一番に気にかけるのが、ジョーの身の上だ。

 ベイビーはこれまで貯めたありったけの金をジョーの内懐に押し込んで、高齢者の介護施設前に運んでいく。
 そしてジョーのために施設あてのメッセージを携帯に吹き込む。2人の間に結ばれた温かい絆にジンとする。

 そして組織のメンバーの、穏やかなバディ(ジョン・ハム)、彼の愛人ダーリング(エイザ・ゴンザレス)、凶暴なバッツ。

 悪党ながら大人の分別を感じさせるバディを、愛人のダーリングが「怒ったら怖い」と評するけれど、それがまざまざと分かるのが終盤のベイビーとのバトルだ。
 超人的な不死身ぶりを発揮する。

 もっと怖いのが「俺が本物のサイコ」と豪語するバッツだ。 キレやすく、そのうえ動物的といっていい鋭い勘で何でも直感的に見抜いてしまう。光った目が不気味。ジェイミー・フォックスの意外な悪党ぶりだ。

 一味を仕切るドクを演じるケヴィン・スペイシーは流石の貫禄だ。 助けを求めてきたベイビーを冷酷に切り捨てるくせに、どこか愛着しているフシもあり、不思議な味を出している。

 ベイビーの夢想が現実のものとなるラストは、若い2人のまっとうで幸せな “これから” が見えるよう。ライトなハッピーエンドが素敵だった。
  【◎△×】7

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