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ビフォア・ミッドナイト


2013年  アメリカ  108分

監督
リチャード・リンクレイター

出演
イーサン・ホーク
ジュリー・デルピー
シーマス・デイヴィー=フィッツパトリック
ウォルター・ラサリー

   Story
 イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー主演の『ビフォア・サンライズ』、『ビフォア・サンセット』のさらに9 年後を、ギリシャの美しい風景を背景に描いた3部作の最終章。

 最初の出会いから18年の時を重ねたジェシー(イーサン・ホーク)とセリーヌ(ジュリー・デルピー)は、今では結婚し、双子の娘にも恵まれている。

 パリに暮らす小説家のジェシーと環境活動家のセリーヌは、友人の招きを受けて、今年は娘たちを連れてギリシャでバカンスを過ごすことにする。
 ジェシーは、シカゴで暮らすと前妻との間の息子ハンク(シーマス・デイヴィー=フィッツパトリック)を呼び寄せる。 ともに海辺の町で夏休みを過ごした後、ジェシーはシカゴに戻るハンクを空港まで見送るが・・・。


   Review
 20代のはじめにウィーンで出会い、9年後、パリで再会したジェシーとセリーヌは、さらに9年後の今、 友人の招きでギリシャの小さな島でバカンスを過ごしている。

 前作で既婚者だったジェシーは妻と別れてセリーヌと再婚し、2人の娘にも恵まれている。
 無精ひげを生やしたジェシー、ちょっぴり太って中年体型になったセリーヌ、「あ〜、2人も中年真っ盛りだなぁ・・・」と感無量の思いになる。

 映画は、夏休みを一緒に過ごしにきた前妻との間の息子ハンクを、ジェシーが空港に送るところから始まる。
 ジェシーは、年頃にかかり父親が一番必要な時期にハンクの傍にいてやれないことが耐えられない。


 思春期の男の子は父親、女の子は母親をモデルとして、大人への門をくぐっていく。 ジェシーの気がかりはもっともだけど、「最高の夏だった」というハンクの言葉 (父親を気遣っての社交辞令の気配濃厚) を真に受けて有頂天になるジェシーのことだ、 多分、心配し過ぎだろう。
 「あの子は大丈夫」というセリーヌの観察のほうが当たっていそうだ。

 セリーヌは子育てに埋没し、自分の人生を生きていない、という感じがじわじわ強くなっている。
 仕事をしたい。でも、家庭があるのにやれるかな・・・。

 ジェシーにその矛盾を衝かれると、かえって「仕事をしたい」という思いが強固になる。 難しい年頃の息子の傍にもっといてやりたい、ハンクがいるシカゴに移住しよう、というジェシーに思わず感情的に反発する。
 夫婦の諍(いさか)いなんてこんな風にちょっとしたことからエスカレートしていくのよね、と見ていて可笑しくもあ り、身にもつまされる。

 2人が郊外の野道を歩きながら交わす会話にすごく惹かれた。
 「子供の頃は “時よ早く過ぎろ” と思った。今は “時よゆるやかに” と思う」とジェシー。まったくそうだよねぇ・・。

 「私は人生のどの瞬間も、記憶か夢のように感じていた」とセリーヌ。私が若い頃感じていた感覚にあまりに近くてドキッとする。

 いつ私の本当の人生が始まるのだろう・・・、いつもそんな感覚だった。 ジェシーが同意して、「“これが僕の人生か? 今起きていることか?” と思った」というのも、だからよく分かる。

 「昔は情熱を保ち続けることが自然にできた。今は多分、僕たちは失望を知ってしまったんだ」とジェシー。 中年になり人生のほろ苦さを知ったからこその言葉だな、と思う。

 人生の春、夏、と追ってきて、本作で描くのは人生の初秋、テーマはずばり “中年期の危機”。
 会話中心の映画作りは前2作と変わらないけれど、生き方の迷いや家族間の葛藤がジェシーとセリーヌの会話 (終盤では激しい口喧嘩) で等身大に語られ、 身につまされるところが多い。

 恋や愛だけでは収まらない人生の苦みが顔を覗かせ、3作の中では私は本作が一番面白かった。
  【◎△×】7

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