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ビッグ・アイズ


2014年  アメリカ  106分

監督
ティム・バートン

出演
エイミー・アダムス
クリストフ・ヴァルツ
ダニー・ヒューストン
ジョン・ポリト
クリステン・リッター
テレンス・スタンプ

   Story
 1960年代にモダン・アート界で一大ブームを巻き起こした<ビッグ・アイズ>シリーズの絵を巡る驚きのスキャ ンダルをティム・バートン監督が映画化。

 1950年代。夫の暴力から逃れて娘とサンフランシスコにやって来たマーガレット(エイミー・アダムス)は、 家具工場で働きながら、休日は公園で似顔絵を描いている。
 そこで出会ったのが、画家を自称するウォルター(クリストフ・ヴァルツ)。快活で社交的な性格に魅了されて、マーガレットは彼と結婚する。

 ウォルターの売り込みが成功して、マーガレットの描く瞳の大きな子供の絵が世間の注目を集めるようになり、 絵で生計を立てることが出来るようになるが、ウォルターはマーガレットの絵を自分の作品と称して売り込んでいた。

 <ビッグ・アイズ>シリーズをポスターやカードなどに商品化し、廉価で買えるようにしたウォルターは、莫大な収入を手にする。 一方、マーガレットは来る日も来る日もアトリエにこもって絵を描き続けるのだが・・・。


   Review
 大きく目を見開いた子供の絵は、私も何かで見たことがある。絵画というよりイラストっぽい印象を受けた。 映画の序盤で、画商が「イラストのコンテストで入賞するレベル」とけなす場面があるけれど、普通に見ればそうなのかな、と思ったりもする。
 それだけに、この<ビッグ・アイ>シリーズが50〜60年代にアメリカで一大ブームを引き起こし、さらにその裏にこんな実話が隠されていたなんて、 ほんとうに意外だった。

 絵の作者はウォルター・キーンということになっているけれど、じっさいはその妻マーガレットだったらしい。
 彼女は夫の “ゴーストライター” ならぬ、“ゴーストペインター” ということになる。 日本で大騒ぎになった「現代のベートーベン」こと “ゴースト作曲家” 事件を思い出したりして・・・。


 このウォルター、芸術家に憧れているけれど、じっさいは絵は描けなかったようだ。 それでもパリ留学経験があると吹聴し、その時に描いた (じっさいは他人の絵にサインを上塗りした) 絵を、マーガレットの絵と一緒に熱心に売り込む。
 やっとのことで画廊として貸してもらえたのは、ジャズクラブの (なんと) トイレ前の通路。そこに絵を並べる姿は滑稽で、ちょっと物悲しくもある。

 この時は彼はまだ、<ビッグ・アイ>の作者を騙(かた)る気はなかったと思う。 それなのに大きな目の子供の絵に興味を示した客に「これは君の絵?」と聞かれた時、思わず「イエス」と答えてしまうのだ。
 画家として認められたい・・・、俗物の典型のようなウォルターがなぜこれほど芸術家であることに憧れるのか、ちょっと不思議な気もする。

 彼に比べると、マーガレットはこの時点ではまだ幸せかもしれない。自分のうちから湧いてくる思いを絵として表現する。ウォルターのようにそこには嘘はないのだから。
 DV夫から逃げて、偶然出会った陽気で社交的なウォルターにたちまち恋をし、再婚し、思う存分絵を描き、・・・ そんな幸せが絵が売れだしたことで一転するのは、なんと皮肉なことだろう。

 ジャズクラブのトイレ前通路のささやかな画廊で、夫が客から「これは君の絵?」と聞かれた時、偶然そこにはマーガレットも居合わせていた。
 それなのに、ウォルターが一瞬ためらったその時に、「私です」と名乗り出なかったのはなぜなんだろう・・・。

 前夫との離婚後、家具工場で働きながら休日は公園で似顔絵を描いて生計を立てていたマーガレット。
 女性の生き方に多くの制約があったこの時代、マーガレットは行動力のあるほうと思うけれど、それでも大事な場面で「う・・・」と自己抑制が働いてしまう。 これが50年代という時代の様相なのだろうか。

 その後10年近く、自分の絵を夫に奪われる日々を、マーガレットはどう思って過ごしたのだろう。
 ウォルターが名声と莫大な収入を得て、芸術家気取りの軽薄さを露わにしていく様子はそれなり面白いけれど、マーガレットの内面がよく分からないのがもどかしい。 存在を奪われ、自分が自分でなくなる苦悩があっただろうと思うだけに・・・。

 ついに立ち上がったマーガレットが夫と法廷で対決する山場も、ヴァルツの軽佻浮薄な演技は最高、大いに笑わせてもらったけど、裁判自体は案外に盛り上がりがない。 全体に主人公の彫り込みが浅いのが惜しい気がした。
  【◎△×】6

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