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ヒトラーに屈しなかった国王


2016年  ノルウェー  136分

監督
エリック・ポッペ

出演
イェスパー・クリステンセン
カール・マルコヴィクス
アンドレス・バースモ・クリスティアンセン
ツヴァ・ノヴォトニー
アルトゥル・ハカラフテ

   Story
 第2次世界大戦時、ナチス・ドイツの侵攻を受け、国運を左右する決断を迫られたノルウェー国王の3日間を描い たドラマ。本国ノルウェーで大ヒットした。

 1940年4月9日、ノルウェー。ナチス・ドイツが首都オスロに侵攻し、相次いで主要都市が占領される。

 ドイツはノルウェーに降伏を求めて来るが、政府はそれを拒否。 混乱の中、ノルウェー国王ホーコン7世(イェスパー・クリステンセン)は、家族、政府閣僚と共にオスロを離れる。

 ヒトラーから電話で直接命令を受けたドイツ公使ブロイアー(カール・マルコヴィクス)は、国王に謁見を求めてくる。
 翌日、ブロイアーと対峙した国王は、ナチス・ドイツの要求を受け入れ降伏するか、あくまで抵抗を続けるか、厳しい選択を迫られる・・・。


   Review
 映画は第2次世界大戦で、ドイツがノルウェー侵攻を始めた最初の3日間を描いている。
 政治に直接関与しない立憲君主制の国王として、この非常時に何がなし得るのか、国民に果たすべき責務は何か、 を誠実に考え苦悩するホーコン7世の姿が強く迫ってくる映画だ。

 冒頭、幼い孫たちと雪の中でかくれんぼ遊びをする国王にまず驚かされる。王室という堅苦しさは微塵もなく、庶民と同じごくありふれた日常の光景だ。
 ドイツの侵攻が始まって国王一家と閣僚は首都オスロから避難を余儀なくされ、転々を居場所を変えていくけれど、 そんな中でも一家の家庭的なあり方は変わりなく、家族の温かい絆に親近感を覚える。

 ドイツはノルウェーに交渉を求めてくる。交渉に応じるというのは降伏を受け入れることだ。
 しかし拒否すれば交戦状態になり、小国ノルウェーはとうていドイツに太刀打ちできない。戦場で大勢の若者が死ぬだけでなく、国民にも多大の犠牲者が出る。
 国王が厳しい選択を迫られる中、オスロでがクーデターが起こり、クヴィスリングによる対独協力政権ができる。


 国王と皇太子オラフ(アンドレス・バースモ・クリスティアンセン)が避難地へ車で移動中、 道路検問中の少年兵セーベル(アルトゥル・ハカラフティ)に国王が声をかける印象深いシーンがある。

 「逃亡の身だから兵士に会えて安心したよ。君たちの動きには感謝してる」、馴れない手つきで敬礼する少年兵にこんな飾りのない言葉をかけるのだ。 国王の率直で温かな人柄がしのばれる。嬉しそうに口元が緩むセーベル。
 「すべては国王のために」と答えるセーベルに、「いや違う。祖国のためだ」と国王は返す。

 この “すべては祖国のために” という言葉はその後も何回か国王の口から出る。“祖国” は “国民” と言い換えてもいいだろう。
 国王が「自分はノルウェー史上唯一の国民に選ばれた国王だ」と言う場面がある。 これは国王の自負であり、同時に国民に対する自らの責任を表わした言葉でもあると思う、「もっとも尊重すべきは国民の意見だ」という・・・。

 本作の底流にあるのは国王と皇太子オラフとの関係だ。
 オラフは冷淡だった母と違っていつもそばにいてくれた愛情深き父を敬愛しながらも、ドイツに対する行動を慎重 に判断しようとする父を優柔不断、臆病、と物足りなくも思う。「父上のような王にはなりたくない」とすら言う。

 しかし、ドイツ公使からの謁見の申し入れに、罠かもしれない、同行する、というオラフを制して、 国王が「万が一の時に備えて覚悟をしておくように」と言い残して一人で赴いた時、彼ははじめて父王の真の胆力を知ったのではないかと思う。

 ドイツ公使との面談後、国王が閣僚たちにドイツの要請を拒否する声明を発表する時、傍らのオラフが励ますようにそっと父の手を握るのが印象的だ。

 本作では国王ホーコン7世と同じほどの比重で描かれるのがドイツ公使ブロイアーだ。

 彼は終始、主権国家であるノルウェーの中立を尊重し、母国ドイツの軍事行動を理解しながらも、ノルウェーにとっては侵攻だ、という視点を失わない。 戦争を避け、出来るだけノルウェーに有利に、話し合い(交渉)で事態を収束しようと奔走する姿は感動を覚えるほどだ。
 敵側であるナチス・ドイツの人間をこれほど公平な視点で描けるノルウェーの成熟度の高さを感じる。

 この後、ノルウェーとドイツは正式に戦争状態になり、国王と皇太子はイギリスに亡命 (家族は一足先に出国)、ノルウェーはドイツに降伏する。 にも関わらず、本来国政に関与しない国王がこの時下した決断は、主権国家ノルウェーの民主主義の象徴になっているという。
 小国ながら国としてのきっぱりした自負が感じられて心地よい。
  【◎△×】7

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