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プリズナーズ


2013年  アメリカ  153分

監督
ドゥニ・ヴィルヌーヴ

出演
ヒュー・ジャックマン
ジェイク・ギレンホール
ポール・ダノ
テレンス・ハワード
マリア・ベッロ
メリッサ・レオ

   Story
 『灼熱の魂』が高い評価を受けたカナダ人監督ドゥニ・ヴィルヌーヴのハリウッドデビュー作。アメリカの田舎町を舞台に、愛する娘を誘拐され、 自力で犯人を捕まえようとする父親をスリリングに描くクライムサスペンス。

 ペンシルバニア州の穏やかな田舎町。
 家族や友人が集まりともに過ごす感謝祭の日、工務店を営むケラー(ヒュー・ジャックマン)の6歳の娘アナが、隣家の娘と一緒に行方不明になる。

 警察は現場近くで目撃されたRV車に乗っていた青年アレックス(ポール・ダノ)を逮捕するが、彼は証拠不十分で釈放される。

 捜査は難航し、指揮を執るロキ刑事(ジェイク・ギレンホール)に不満を募らせたケラーは、わが子を救出するために、自ら行動を起こすのだが・・・。


   Review
 ほんとうに偶然なのだけれど、本作を見た翌日、夏休みで祖父母の家に遊びに来ていた少女が行方不明になる事件が起き、胸がギュッと絞り上げられる気持ちになった。
 近頃、こうした出来事が多い気がする。無事解決することもあれば悲しい結果になることもあり、事情は様々だけれど、 両親の心情を思うと、いつもいたたまれない思いになる。

 本作はまさにそうした時の親の気持ちをありありと描き出して、観る者に迫ってくる。

 警察の捜査は生ぬるい、自分の力で娘の居場所を発見し、何としてでも助け出してやる。ヒュー・ジャックマンが 扮する父親ケラーはその一心で凝り固まっている。

 娘は何かのはずみで道に迷っているのかもしれない、誘拐だとしても、容疑者はトレーラーの男以外にもいるかもしれない、などとは考えない。
 犯人はあの男に違いない、・・・取り憑かれたような思い込みの激しさは、彼の内面に渦巻く “何か” を感じさせる。

 ケラーは証拠不十分で釈放されたアレックスをこともあろうに誘拐し、今は廃屋になっている実家に監禁、凄惨な拷問を加えて娘の居場所を白状させようとする。

 どれほど責めてもアレックスが「知らない」といい続けるのは、「いわない」のか「(本当に知らないから) いえない」のか、それすらも考えようとしない。 娘を思うあまり、犯罪者の領域に迷いもなく踏み込んでいくケラーが怖ろしくすらなる。

 捜査を担当するロキはけっして凡庸な刑事ではない。迷宮入りかと落ち込むこともあるけれど、一歩一歩、着実に事件の核心に迫っていく。 その中で次第に明らかになるのは、過去に大きなトラウマを負った人の抱える心の闇の深さだ。

 新しい容疑者ボブ・テイラーが浮かび上がり、アレックスの伯母(メリッサ・レオ)との意外なつながりが分かってくる。 2人ともそれぞれに過去に大きな心の傷を負い、その痛みの中に閉じ込められて、今もあがいているように 見える。

 この映画に登場する人たちは、25年前に息子を誘拐された女性も、飲んだくれの神父も、みな、過去の出来事の「囚われ人 (プリズナーズ)」だ。

 看守だった父が自殺したケラーもそうなのではないだろうか・・・、彼の頑なな思い込みは、今もその痛手から立ち直れていない証しではないか・・・。
 一方、少年院歴のあるロキは、刑事になることで「過去」から抜け出そうとしているのではないだろうか・・・。

 終盤には息もできない衝撃的な展開が待ち受けていて、本作は犯人探しとしてもよく出来ているけれど、それにもまして思うのは、 こうした人間の内部に食い込む視点だ。

 陰鬱な雨に降りこめられた町、車一台通らない漆黒の夜、と印象的な映像が多い。 中でも秀逸なのは、夜、捜査員が引き上げて一人佇むロキが、風に吹き交じってかすかに届く笛の音に耳を澄ませるラストのアップシーンだ。

 ケラーの娘アナは無事保護されたけれど、今度はケラーが姿を消した。そこにどこからかかすかに笛の音が聞こえる・・・。 アナが、失くした笛を探しに戻って、そのまま行方不明になった時のあの笛だ。その笛の音が今、ケラーの命を救う・・・、鮮やかな幕切れだった。
  【◎△×】7

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