Story 『運命じゃない人』『アフタースクール』の内田けんじ監督が、ふとしたはずみで人生が入れ替わった2人の男と 婚活中の女性編集者が巻き起こす思わぬ事態の成り行きを描いたコメディ。 売れない役者・桜井(堺 雅人)は、ある日、銭湯で見るからに羽振りのいい男(香川 照之)が転倒する現場に居合わせる。 とっさに男と自分のロッカーの鍵をすり替え荷物をくすねた桜井だが、反省して病院に見舞うと、男は頭を強打して記憶を失っていた。 これ幸いと桜井は男になりすますが、男はじつは殺し屋コンドウだった。 一方、自分を貧乏役者の桜井だと思い込んだコンドウは真面目に演技の勉強に取り組み、そんな彼に女性編集者の香苗(広末 涼子)が好意を持ってしまう・・・。 Review 登場人物たちがみな、ネジが1つだけ、どこかちょっと違うところに付いてます、みたいな感じなのが面白い。 たとえば、殺し屋のコンドウ、えらい立派なマンションに住んでるくせに、なんで銭湯なの? それは一仕事終わったのはいいけど、映画のロケ中の道路に入ってしまい、汗を流したいのに身動きが取れない。 ふと見ると、そこに銭湯が・・・。あんまり間がよくて笑ってしまう。 売れない役者の桜井。コンドウが銭湯で石鹸を踏んで (これまた間が抜けている) 転倒し、 気を失ったのを見て出来心を起こす。(この時の堺雅人が一瞬見せるずる賢こい目にまた笑ってしまう。) で、記憶喪失のコンドウに成りすまし、手に入れた金でそれまでの借金を返して回る。狭い部屋さえきちんとでき ず、だらしなく散らかしている桜井にしては、妙に律儀なのだ。 返される方も、上等のスーツと高級車の桜井を怪訝に思う風もない。このいい加減さが何ともいえない。 そもそも、オープニングの雑誌編集会議で編集長の香苗が「私、結婚します」と宣言するシーンが抜群だ。 部員が一瞬固まってノーリアクションなのにまずクスリとする。 それから「いつですか」「だれと?」と矢継ぎ早の質問。 「まだ決まっていません。これから探します」と香苗が部員に協力を依頼する (ここでまたクスリ)。 突然男性部員が硬直したように立ち上がって「編集部からの立候補はアリですか」。 香苗「検討しましたが、ナシです」、部員、はぁー・・・と溜め息をついて着席。グフフ、これでツカミはOKだ。 香苗の、目を見開いていつも緊張したような、自分の感情のありどころが分かりません、というか、そもそも感情ってなんですか、みたいな表情が面白い。 それでいてそんな自分が心許なくてちょっと不安、“胸キュン” って一体どんな感じなんだろう、みたいな微妙な揺れも感じさせる。 広末涼子はあんまり好みの女優ではないけれど、本作の彼女はなかなかいい。 コンドウが住みはじめてからというもの、桜井のアパートは綺麗に片付いて小洒落てさえ見える。 どうやら自分は役者らしい、と思いはじめたコンドウは熱心に演技の勉強を始める。正座して几帳面にメモを取り、真面目な努力に手抜きはない。 殺し屋になる前は便利屋だった彼、きっちりした仕事ぶりで顧客の信用も厚かったんじゃないのかな、なんで裏稼業になんか手を出したんだろう・・・、 なんてことまで考えてしまう。 で、記憶が戻ってからの目つき、顔つきの悪さは香川照之がさすがの豹変ぶりだ。それでいて桜井に「刺されて倒れて死ぬ」演技をつける時の堂に入った指導ぶり。 ひきかえ、本来は役者のはずの桜井の演技の下手なこと。何度もコンドウにダメ出しされて。これじゃ芽が出ないはずだぁ。妙なところで納得したりして・・・。 童顔なのにヌッと図体が大きくて、妙な狂気を感じさせるヤクザの工藤役の荒川良々や、 スーパーのレジ係りの時はごく普通の女性なのに、だんだん元ヤクザの女風の崩れた匂いを出す森口瑤子もいい。 出番の少ない香苗の両親役の小野武彦、木野花も妙に印象に残る。 ストーリーのヒネリがもう1つなのが惜しいけど、コンドウと香苗の恋の行方や、蛇足感ありつつピタッとハマるエンドロール後のオチなど、なかなか面白かった。 【◎○△×】6 |