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華麗なるギャツビー


2012年  アメリカ  142分

監督
バズ・ラーマン

出演
レオナルド・ディカプリオ
キャリー・マリガン
トビー・マグワイア
ジョエル・エドガートン

   Story
 “狂騒のジャズエイジ” を背景に、アメリカンドリーム取り憑かれた男の悲劇を描いたスコット・フィッツジェラルドの代表作「グレート・ギャツビー」の映画化。

 空前の好景気に沸く1920年代のアメリカ。ニック・キャラウェイ(トビー・マグワイア)はニューヨークの郊外、 ロングアイランドに越してくる。
 隣に建つ宮殿のような豪邸では、毎夜盛大なパーティーが繰り広げられていた。

 ロングアイランドの対岸には、いとこのデイジー(キャリー・マリガン)が女好きの夫トム・ブキャナン(ジョエル・エドガートン)と暮らしている。

 ある夜ニックは、桟橋に立って対岸のデイジーの邸宅を見つめる謎めいた男を見かける。 彼こそが隣家の豪邸の主(あるじ)、ジェイ・ギャツビー(レオナルド・ディカプリオ)だった。
 そんな中、ニックにギャツビーからパーティへの招待状が届く・・・。


   Review
 ロバート・レッドフォードの74年版が好きでディカプリオ版はさほど食指が動かなかったのに、ひょんなはずみで見ることになった。 良きにつけ悪しきにつけつい74年版と比べてしまう。それでかえって二重に楽しめた気がする。

 まず語り手のニック。74年版サム・ウォーターストンの控えめで淡々とした語り口が気に入っていたこともあって (その客観的な視線が、 ギャツビーの純愛と破滅、彼を見捨てて一顧だにしないデイジーの冷酷を際立たせていた)、 本作のトビー・マグワイアはストーリーの一員としての当事者感がややうるさいかな・・・。

 と思う一方で、富裕階層のデカダンに巻き込まれ、(恐らくそのために) 今はアルコール依存症となって療養所にいる。 自らの過去を語ることで依存症から抜け出そうとあがく彼はたしかに当事者であり、リアルな存在になったとも思う。

 本作でデイジーに扮するのはキャリー・マリガン。
 『わたしを離さないで』(10) や『未来を花束にして』(15) の彼女はほんとに素晴らしかったけれど、若手実力派のマリガンでもやはり、向き不向きはあるのだな、と思う。

 74年版ミア・ファローが育ちの良さからくる身勝手さや驕慢さが印象的だっただけに、 本作のデイジーは、ギャツビーが5年間ひたすら追い求め、純愛を捧げ続ける対象にしてはあまりに “ふつう”。

 愛らしいけれど、どこにでもいるありふれた若い女性、という以上の印象がないのが残念だ。

 おそらくデイジーは、喜びも悲しも深く心に留まることなく、浅い川のようにサラサラ流れ去るタイプの女性ではないかと思う。 上流階級の令嬢らしいそうした酷薄さがもっと出ていたら、ギャツビーの悲劇はもっと際立っただろうに、と惜しい気がする。

 さて肝心のギャツビーだけれど、ディカプリオが予想に反してハマっているのが意外だった。

 74年版レッドフォードのためにいい添えると、仕立てのいいスーツをスッキリ着こなした佇まいは、それだけで一気に引き込まれる魅力があったし、 彼の甘い美貌は不思議なことに、本来美人とはいえないミア・ファローすら華美で、それでいて壊れ物のように華奢な儚い花のように見せていた。

 惜しむらくは端正すぎて、ギャツビーのある種のいかがわしさが感じられなかったことか。
 その点、本作のディカプリオはギャツビーの身辺に漂う暗さ、危うさが見事に体現されている。

 ニックがはじめてギャツビーに会うパーティ・シーンで、ディカプリオが見せる笑顔が印象的だ。
 額に小さなシワを寄せ自信に満ちたその顔は、傲慢さと、同時にそれが空虚な空威張りであることも微妙に感じさせ、 ギャツビーにまつわる様々な暗い噂を信憑性のあるものに思わせる。


 それでいて、ニックの家でデイジーと再会する際のうぶな少年のような緊張ぶり。彼がどれほど一途にデイジーに憧れ、その愛を熱望し続けたかが痛いほど伝わってくる。

 デイジーの夫トムの邸で、トムを愛したことはない、はじめからギャツビーだけを愛していた、とデイジーに言わせようとする場面も同様だ。 ギャツビーにとって上流社会の富や成功の象徴であるデイジー。どれだけ手を伸ばしても掴めない、それでも求めずにおれない切迫感が切ない。

 華麗なセットで “Rolling 20's” の狂騒を再現した演出は、あまりにけたたましくて目眩(めまい)が起きそうだ。 けれどもギャツビーの成り上がりは、第1次世界大戦後のアメリカの空前の経済繁栄を抜きにしては成り立たない。

 彼の事業の危うさと後ろ暗さ、そして掴んだと思った成功の空虚さも同様だ。それを露骨とも言える過剰さで表現した本作は、74年版とは異なる面白さがあった。
  【◎△×】7

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