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影の軍隊


1969年  フランス  140分

監督
ジャン=ピエール・メルヴィル

出演
リノ・ヴァンチュラ
ポール・ムーリス
クロード・マン
ジャン=ピエール・カッセル
シモーヌ・シニョレ
ポール・クローシェ
クリスチャン・バルビエ

   Story
 第2次世界大戦中に秘密出版された、抵抗運動に命をかけたレジスタンスたちを描いた小説の映画化。
 フィルム・ノワールの鬼才ジャン=ピエール・メルヴィルが、彼らの生と死を坦々としたタッチで綴っている。

 第2次世界大戦中のナチス・ドイツ占領下のフランス。
 密告からゲシュタポに捕まったジェルビエ(リノ・バンチュラ)はからくも脱走に成功し、マルセイユで裏切り者を始末した後、パリに潜入する。

 レジスタンス仲間たちと活動を続けるうち、信頼していた女性同志マチルド(シモーヌ・シニョレ)がゲシュタポに捕まったという報がはいる。

 それをきっかけに次々とメンバーが逮捕されていく・・・。


   Review
 レジスタンス映画につきものの銃撃戦や戦闘場面はなく、静かに淡々とした流れの中でストーリーが進むのがかえって異様な緊張感をはらみ、 映画をリアルなものに感じさせる。
 そのいい例が序盤、ジェルビエが収容された独軍キャンプから脱走するプロセスだ。

 同じ棟に収容された電気技師の若者と示し合わせて脱走の機会を窺ううち、ある時突然ジェルビエだけがゲシュタポ本部に連行される。
 処刑を直感したジェルビエは、廊下のベンチで呼び出しを待つ間、監視兵が数歩離れた隙きをみて、 隣りに座った別の連行者に囁く、「監視兵に話しかけるから、その隙きに逃げるんだ」と。

 ギョッとしたようにジェルビエを見る男。
 監視兵が元の位置に戻る。2人は何事もなくそれまで通りに俯いたり、あらぬ方を見たり・・・。その合間にも互いの気配を探り合う。
 なんとも言いようのない緊張感が画面に漂い、長い時間が流れる・・・。実際はそれほどではなかったかもしれな いけど、そう感じてしまう。それほどの緊迫感だ。

 ジェルビエが腰を上げる。「タバコの火を貸してくれないか」。
 話しかけた時にはもう監視兵の腰からナイフを抜き取り、喉をかき切っている。あ!と思う暇もない。目が覚めるほど鮮やかだ。

 こうしてジェルビエは脱走に成功し、パリに潜入するレジスタンスたちと合流する。

 後半登場するレジスタンスの女性幹部マチルドは、シモーヌ・シニョレが扮するだけに、経験に裏づけされた胆力を感じさせる。
 彼女が指揮するゲシュタポに逮捕された同志フェリックス(ポール・クローシェ)の救出作戦は、例によってほとんどセリフもなく坦々と進むだけに、 かえってじわじわと寄せてくる緊迫感で胸が締めつけられる。

 この作戦は、拷問を受け続けたフェリックスが瀕死の状態に陥っていたために失敗に終わり、 そればかりか同志ジャン=フランソワ(ジャン=ピエール・カッセル)の犠牲までも生んでしまう。
 それでもマチルドたち救出メンバーの乗った車が何事もなくナチスの尋問本部を離れた時は、心底ホッと安堵の吐息が洩れた。

 終盤、これまで幾度も仲間の救出に成功し (ジェルビエもその一人。再び捕らえられ、彼女の知略で助けられた) 、みなの信頼を集めるマチルドが逮捕され、 彼女の唯一の弱点である愛娘を盾に取られて、同志の名を割ってしまった、という報がもたらされる。

 この時のレジスタンスのリーダー、ジャルディ(ポール・ムーリス)とジェルビエの下した決断が凄まじい。


 これまでの功績がどれほど大きくても、裏切りは許されない。かつてジェルビエを密告し、彼の逮捕のもとを作った若者ドゥナも処刑された。マチルドとて例外ではない。

 こうして2人は釈放された彼女の処刑を決断する。
 彼女に心服するバイソン(クリスチャン・バルビエ)とマスク(クロード・マン)は決行をためらうけれど、 この時のジャルディの「マチルドもそれを望んでいるに違いない」という言葉に胸を突かれた。

 そうかも知れない。生きている限り、彼女は娘の命を守るために、次々に同志を告発しなければならない。これは地獄以上のものだろう、と思ったのだ。
 それしてもレジスタンスとはなんと凄まじい覚悟がいることなのだろう・・・。

 街路を歩くマチルド、すれ違いざまに拳銃で彼女を射殺して走り去る車、声もなく倒れるマチルド・・・。
 そして字幕で語られるほかのメンバーたちの悲惨な最期は、レジスタンスの闘いの現実を余すことなく伝え、粛然たる思いになった。
  【◎△×】7

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