Story 第2次世界大戦直前のヨーロッパを舞台に、アメリカの新聞社特派員がオランダの大物政治家の暗殺を目の当たりにし、 背後にある政治的陰謀に巻き込まれるサスペンス映画で、アルフレッド・ヒッチコック監督が『レベッカ』に 続いて撮った渡米後第2作目。 1938年、アメリカ人の新聞記者ジョーンズ(ジョエル・マクリー)は、不穏なヨーロッパ情勢を取材するためにロンドンを訪れ、 平和運動家フィッシャー(ハーバート・マーシャル)が開いたパーティで彼の娘キャロル(ラレイン・デイ)と知り合いになる。 その後、和平会議の取材に赴いたジョーンズは、オランダの反戦政治家ヴァン・メア(アルバート・バッサーマン)の暗殺現場に居合わせる。 犯人を追跡したジョーンズは、殺されたのはヴァン・メアの替え玉であることなど、ドイツのスパイ組織の秘密を知る。 事情を知りすぎた彼は命を狙われるようになるが・・・。 密集した雨傘、回る風車、飛行機の操縦席に流れ込む海水など、テクニックを駆使した映像はのちの多くの監督に影響を与えた。 Review ヒッチコックは私の一番好きな監督だ。これまでいろいろ見たけれど本作は初鑑賞。 昔の映画はおおむねストーリーがシンプルで、今の映画に馴れた目で見ると物足りなく思うことが多い。 そうした時代性の違いを差し引いても、一本調子のストーリー運びは期待が大きかっただけに、手応えはもう1つだった。 例えば、暗殺されたはずの大物政治家がじつは生きていたり、富豪で国際的な平和運動家が裏では陰謀団の黒幕だったり、事情を知りすぎた主人公が命を狙われたり、 と仕掛けはけっこう面白い。 ところがどれもあっさりと真相が分かってしまう。分かる過程にキョクない、だからドキドキしようがない。 そこに下手なラブロマンスが絡むから、話のテンポが落ちてしまうという具合だ。 ヒッチコックといえばまず頭に浮かぶのが斬新でアイディアに富んだ映像だ。それも本作は思ったほどではない。 有名な密集した雨傘の中を殺人犯が逃げるシーンがその1つ。 犯人の逃走に合わせて雨傘の群れが揺れ、分かれ、そしてまた寄り集まる、そんな稲穂が風にざわめくようなサマを想像していたけれど、 正直、雨傘がたくさんかたまっているだけの印象。あっさりしている。 吹く風の向きと反対に回る風車のシーンは、遠くに小さく風車が2つ、手前に大きく風車の入り口とバサリと降りて来る羽根、カメラはこれを何度か行き来する。 妙に間延びしていて、ほんとはサスペンスフルな場面のはずなのに、とじりじりする。 やっと羽根の逆回りに気づいたジョーンズが風車の中に忍び込むと、中にいる数人の男たちは何やら話しているだけ。ここでもはぐらかされた気分になる。 ただ、ジョーンズが幽閉されたヴァン・メアを発見するシーンは、ギリギリと回る大歯車や木の階段を仰角で捉えた映像がヒッチコックらしいシャープさを見せている。 ヒッチコック映画の数々の名場面が頭をよぎり、少々残念な気持ちになるけれど、ラストの海面に不時着した飛行 機のコックピットに海水がなだれ込むシーンは、今の眼で見てもかなりの迫力だ。 CG技術のない時代にこれだけの映像を生み出したのはさすが。当時の観客はきっと度肝を抜かれたに違いないと思う。 いろいろ不平を並べたけれど、随所にちりばめられたユーモアはいかにもヒッチコック監督らしくて楽しい。 ジョーンズを守るためと称して現れた探偵 (じつは殺し屋) が初老の男なのを見て、ジョーンズが思わず「この男が (護衛だっていうのか) ?」というと、 フィッシャーが「腕利きだ」と取り繕うのにクスッ。 ところがこの男、腕利きどころかジョーンズを始末する方法が塔の上で後ろから両手で押すという単純さだ。両手を広げて背後から忍び寄る様子にまたまたクスッ。 ラストの、事件は伏せるようにと軍から要請されたジョーンズが、 つないだままの電話を棚の上に置き、ペラペラとこれまでの経緯を語って素知らぬ顔でNY本社にレポートしてしまうのにも笑ってしまった。 ジョーンズを演じているのが『昼下りの決闘』のジョエル・マクリーと知ってちょっと驚いた。ハンサムだけど特徴がなくて損しているかも。 ラレイン・デイがキュート。2人の正統派ラブロマンスを見てみたい気がする。 【◎〇△×】6 |