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下宿人


1926年  イギリス  80分

監督
アルフレッド・ヒッチコック

出演
マリー・オールト
アーサー・チェスニー
ジューン
マルコム・キーン
アイヴァー・ノヴェロ

   Story
 ハリウッドにわたって世界的なスリラーの巨匠となるヒッチコックが、イギリス時代にはじめてサスペンス演出に 挑戦した作品。連続殺人が発生し、2階に身元不明の下宿人を置いた夫婦が、男が殺人犯ではないかと疑心暗鬼に陥るさまが描かれる。

 19世紀末にロンドンを震撼させたジャック・ザ・リッパー (切り裂きジャック) の事件に材を得ている。

 ロンドンで金髪美人ばかりを狙う連続殺人が発生し、巷は恐怖に慄いていた。
 そんな折、金髪娘デイジー(ジューン)の両親(マリー・オールト、アーサー・チェスニー)が営む下宿屋に一人の男(アイヴァー・ノヴェロ)がやってくる。

 怪しげな行動に周囲の人は彼を犯人ではないかと疑い始め、ついにデイジーの恋人の警察官ジョー(マルコム・キーン)は彼を逮捕するが・・・。


   Review
 ヒッチコックがイギリス時代に撮ったサイレント映画。 画面によって色調が青味がかったり黄色みを帯びたりするのが、戦前の古い古いフィルムを今見てる・・・、と実感させられる。

 意外なことに、本作はヒッチコックがはじめて挑戦したサスペンス映画なのだそう。
 貴重なフィルムを見ているのだという思いと同時に、シンプルすぎるストーリー運びに時代を感じたり、 早くもヒッチコックらしい演出があるのに気がつき、クスッとしたりもする。

 たとえば、冒頭から繰り返し出てくる “To_Night Golden Curls” の字幕。「今夜も金髪の巻き毛が」という感じ?

 レビューの踊り子たちがそれを話題にしてキャーキャー騒いでいる様子も出てくる。「私も金髪よ、 どうしよう」とか「かつらを被ろうかしら」とか、そんなことをいい合ってるのかな (サイレントだからよく分からないけど)・・・。

 ヒッチコックの金髪好きは有名だけに、連続殺人の被害者をわざわざ金髪にするなんて、と可笑しくなる。

 フォスターの曲で “金髪のジェニー” という歌があったけど、本作のヒロイン、金髪のデイジーも明るく可憐で、とってもチャーミング。

 警官のジョーがデイジーに、ハート型にくり抜いたパイ生地をひょいと渡して恋心を伝えるのが粋だ。
 受け取ったデイジーがパイ生地をジョーの目の前で2つにちぎって軽〜く「ノー」といって見せ、かと思うとドアの陰でチュッとキスを受けて、 一体どっち?とジョーをやきもきさせるのがうまい。

 ここに現われるのが、謎の下宿人だ。連続殺人の目撃者の「顔半分をマフラーで隠していた」という言葉通りの姿で戸口に立つものだから、下宿の女将さんは胸ドッキン。 ご亭主に耳打ちして、あとはもう彼の一挙一動が疑惑のも と、夫婦の疑心暗鬼は膨らむばかりだ。

 この辺りは、ヒッチコックの佳作、夫は殺人者なのでは? 次のターゲットは自分なのでは? とヒロインが妄想に怯える『断崖』(41) を彷彿とさせる。

 秀逸なのが、2階を歩き回る下宿人の足音に耳をそばだて、夫婦が不安に慄くシーンだ。

 見上げる2人の目に、ランプが揺れ、コツコツという足音 (これは後からBGMと一緒に入れられたものらしい) とともに、部屋を行ったり来たりする下宿人の姿が見える。
 これは実際に素通しのガラス越しに撮影したのだそうで、夫婦の不安をビジュアル化したヒッチコックのアイデアの卓抜さに脱帽だ。

 こともあろうにデイジーはこの怪しげな下宿人に好意を寄せ、連続殺人事件の捜査担当になったジョーはやきもち半分彼に容疑をかけ・・・、 とヒロインを巡る三角関係が絡んで、ストーリーは終盤あっという間に大団円になる。
 デイジーにとってはめでたしめでたし。でも、気が好くノー天気なジョーにはちょっと気の毒だったかも・・・。
  【◎△×】6

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