Story 白人の恋人の実家を訪ねた黒人の青年が体験する思いがけない恐怖を描き、全米で大ヒットを記録したホラー・サスペンス。 ニューヨークに暮らす写真家クリス(ダニエル・カルーヤ)は、白人の恋人ローズ(アリソン・ウィリアムズ)の実家を訪れ、週末を過ごすことになる。 ローズはクリスが黒人であることを両親に告げていないという。 クリスは不安で仕方ないが、意外にも両親(ブラッドリー・ウィットフォード、キャサリン・キーナー)は彼を大歓迎する。 ひとまず安心するものの、黒人の使用人の様子がどこかおかしい。 翌日、亡くなった祖父のためのパーティが開かれ大勢の客がやってくる。白人ばかりに囲まれて居心地の悪さが募るクリスだが・・・。 Review はじまりは『招かれざる客』(67) を連想した。人種問題にリベラルな考えを持つ新聞社主が、愛娘が結婚したいと連れてきた相手が黒人と分かって動揺し、 自分の中の本音 (黒人への差別意識) を自覚させられる話だ。 といってもコメディ風のホームドラマで、深刻ではない。 本作では逆に、白人の恋人の両親に引き合わされることになった黒人青年が、「受け入れてもらえるんだろうか」と心配する。 『招かれざる客』と攻守、処を変えているのが面白い。 と同時に、アメリカで収束の気配を見せない “黒人の命は大事だ (Black Lives Matter)” 運動と、さらにそれに対する反発の動きが思い浮かび、 半世紀以上経っても事情はあんまり変わってないんだな、とも思う。 さて、恋人ローズの実家に着くと、黒人青年クリスの心配は杞憂どころか、快く上機嫌で温かく、迎えられる。 ・・・のはいいけれど、どこかヘンだ。前もって相手は黒人と告げられていないにしては戸惑いがなさ過ぎる。 そういえば黒人の庭師や家政婦が妙に生気がなく、不自然だ。ローズの弟ジェレミーが、両親とは正反対に挑発的なのも気になる。クリスの中に徐々に違和感が高まっていく。 演じるダニエル・カルーヤの、怪訝に思う自分がおかしいのかな、と思いつつもやっぱりヘンだと思うその自然さが上手い。 翌日、ガーデンパーティにローズの両親の知人が大勢やってくる。みな妙にニコニコとクリスを歓迎し、やたらに身体に触り、品定めするような視線だ。 じわじわ高まるクリスの違和感は、参加者の中に黒人青年を見つけ、ほっとして声をかけた時に起こったハプニングで頂点に達する。 魂を抜かれたように無表情のその黒人青年がフラッシュの光に反応して、突然「ゲット・アウト!」と叫ぶのだ。 これは “なに” に向かって発せられた言葉なのか? 奇妙な空気がみなぎる邸でクリスの落ち着かない気分を理解し共有してくれるのがローズだ。 彼女は自分の家族や出来事を客観的な目で見、批評する。それはごくごく真っ当で的を射ており、かつ痛烈だ。 そこでクリスはかえって自分の思い過ぎだったかとホッとする、というわけだ。 クリスが自分を見失いそうになると、彼を受け止め、引き戻してくれるのがローズなのだ。それだけにラストのどんでん返しはじつに強烈だ。 何が怖いといって、本作で一番怖いのはローズかもしれない。 後半は、話はそっちにいくか、という突拍子もない展開でローズの実家の秘密が暴かれていく。 黒人を持ち上げ称賛しても、それが身体能力だけに注目し評価したものなら、人種的偏見と言っていいだろう。 運動・学問・芸術どの分野でも得手不得手は個人の違いで、人種や男女の違いではないのだから。 それにしても向こうの映画って (一々題名はあげないけど) 永遠の若さとか美とか命とか、“永遠” にこだわったものが多いな・・・。 美しく咲いてパッと散る桜に象徴される “滅びの美” を愛する日本人の感覚からすると、こういう執着ってちょっと不気味だったりして・・・。 ところで本作でコメディ・リリーフでありながらさりげなく重要人物の位置にいるのがクリスの友人ロッド(リル・レル・ハウリー)だ。 シンプルに陽気で太ったあんちゃんという感じの彼、じつはしっかりしている。いち早くローズに不審を抱き、クリス救出に駆けつける。 不穏な空気が高まっていく語り口の巧妙さ、張りめぐらされた伏線のうまさ・・・、いろいろアラもあって評価は辛めの6点、でもけっこう面白かった。 【◎〇△×】6 |