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キャリー


1976年  アメリカ  98分

監督
ブライアン・デ・パルマ

出演
シシー・スペイセク
パイパー・ローリー
ウィリアム・カット
ナンシー・アレン
ジョン・トラヴォルタ
ベティ・バックリー

   Story
 超能力のある少女が虐げられた怒りを爆発させて恐ろしい事態を巻き起こす、ホラー文学の巨匠スティーヴン・キ ングの処女作の映画化。デ・パルマの出世作となった。

 さえない容姿の女子高生キャリー(シシー・スペイセク)は、友人からはいじめられ、母親(パイパー・ローリー)からも疎まれて、絶えずおどおどと生きていた。
 しかし彼女には、怒りを引き金として念動力を発揮する力があった。

 クラスメートのクリス(ナンシー・アレン)たちは、キャリーへのいじめを理由にプロム・パーティの参加を禁止されていた。
 その恨みをキャリーに振り向けて、プロム・パーティの夜、悪質ないたずらをキャリーに仕掛ける。

 そうとも知らず、学校一ハンサムなトミー(ウィリアム・カット)とベスト・カップルに選ばれたキャリーは、最高の幸せを味わうが・・・。


   Review
 冒頭シーン、シャワールームで初潮を見たキャリーが恐怖に襲われ、それをクラスメートたちに嘲られる様子に胸をえぐられるような痛みを感じた。

 キャリーは母から女性の成長について説明を受けていなかったためにパニックに陥ったのだけれど、予備知識があっても、初潮の不安は大きい。
 それだけに、このような形で大人への通過儀礼を経なければならなかったキャリーのショックと、それを嘲りの対象とされた心の傷はどれほど深かったろうと思う。

 母親にしっかり抱きしめてほしいところなのに、キャリーの母は逆に大人の身体になった娘に敵意と嫌悪を示すのを見て、 映画『サイコ』(60) の主人公のモデルといわれるエド・ゲインの母を連想した。

 彼女は狂信的なルター派の信者で、セックスを嫌悪し、生涯夫を罵倒しつづけ、2人の息子に男性という性を否定する歪んだ性教育をほどこしたという。

 狂信、性の罪悪視、はキャリーの母に共通している。大人になるということは、母にとっては悪魔の誘惑に近づくことを意味しているのだ。 子供はいつまでも子供のままでいるべきで、肉体的に成長してはならない。キャリーの17歳という遅すぎる初潮は、こうした母の無意識の呪縛の表われなのだろう。

 遅まきながらやっと人並みに女の子らしい感情が息づき始めたキャリー。 プロム・パーティで学校一ハンサムな男の子に優しくエスコートされて、至福の時間を味わうキャリー。
 その直後の残酷な出来事があらかじめ分かるだけに、彼女の目の輝きを見ているだけで胸が潰れそうになる。

 ところがここでも、打ちのめされて帰宅し「ママ、抱いて」とすがりつく娘に、母は自分のトラウマを語ってきか せるだけなのだ。
 キャリーには、傷ついた心を受け止め癒してくれるべき人も、場所もない。積もり積もった怒り・悲しみ・孤独が炎になって吹き上げるのは、よく分かる気がする。

 彼女は超能力の持ち主という設定になっているけれど、 そうでなくても、この映画は周囲から変わり者と見られ、排除される少女の思春期特有の疎外感を共感をもって描いているように思う。

 キャリーは母親の宗教的狂信と対決し、最終的にはその呪縛から解放されて一人の女性として歩み出すのだろう、と思っていただけに、 希望のない結末が思いがけなかった。

 キャリーが哀れでたまらない。プロム・パーティの惨劇からただ一人生き残ったクラスメートが見る悪夢 (墓場の土から突き出る手) のショッキングな映像は、 キングらしいホラーチックなラストだけど、成仏しきれないキャリーのこの世への心残りが感じられて、哀れだった。
  【◎△×】7

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