HOME50音表午後の映画室 TOP




告白


2010年  日本  106分

監督
中島 哲也

出演
松 たか子、木村 佳乃
岡田 将生、西井 幸人
藤原 薫、橋本 愛

   Story
 湊かなえの同名ベストセラー小説を原作に、『嫌われ松子の一生』の中島哲也監督が担任クラスの生徒に娘を殺された女性教師の復讐を描くミステリー・ドラマ。
 登場人物たちそれぞれの視点が「告白」という形で綴られ、緊張感を高めている。

 ある中学校の1年B組。終業式後のホームルームで、担任の森口悠子(松 たか子)が生徒たちに向かってある告白を始める。

 それは数ヶ月前に学校のプールで起こった娘の死についてだ。
 警察は事故死と判断したが、そうではなく、このクラスの生徒、犯人Aと犯人Bによる殺人だったと。

 そして、少年法で守られた彼らを自分の手で処罰すると宣言する。
 その後、森口は学校を辞め、代わりに熱血教師・寺田良輝(岡田 将生)が新担任としてやってくる・・・。


   Review
 公開当時かなり話題になったし、原作が本屋大賞を受賞したということでそれなりに期待して見たけど、 終始陰惨な空気がつきまとい、「見なきゃよかったなぁ・・・」と珍しく後悔した。

 まず冒頭の教室のシーン。ひと頃よく耳にした学級崩壊ってこんな風だったのかな・・・。流石にここまでひどくないだろうと思いつつも、 騒ぐ生徒たち、止めもせず覚めた視線でそれを見つめる教師。 合間には屋上で行われる生徒同士のイジメの様子が挿入され、綺麗ごとをいう気はないけど、殺伐とした光景に胸が冷や〜っとなる。

 本作で非常に印象的だったのは、「なーんてね」という言葉だった。
 それまでのことを、すべてなかったことにして、ひっくり返す。調子が軽いだけに、使いようによってはひどく残 酷に響く言葉だと本作を見てあらためて思う。

 はじめにこれを使うのは犯人Aの渡辺修哉(西井 幸人)だ。
 彼は森口にあっさり犯行を認めた後、いきなり窓から飛び降りようとする。森口が驚いて止めようとすると、スッと振り返って、「なーんてね」というのだ。

 森口はすでに復讐を始めているのだから、ほんとうなら修哉が飛び降りてそのまま死んでも構わないはずだ。
 それを思わず止めようとしたのは、たとえどれほど怒りと悲しみで心が凍っていても、彼女の中に命を尊ぶ ‘善なるもの’ がある証しだ。 それを修哉は弄(もてあそ)んだのだ。

 「なーんてね」、・・・この軽い言葉が表わすのは、彼の心の荒廃以外の何ものでもないと思う。
 しかし森口の怖さはこれを10倍もの悪意を込めて修哉に返すことだ。

 修哉は自分がいかに凄いことをやる能力があるかを母に知ってもらうために、卒業式の日、教師や生徒たちを道連れに講堂で自作の爆弾を爆破させる計画を立てる。
 ところが起爆用の携帯電話のボタンを押しても何も起こらない。爆弾を入れたバッグがなくなっていたのだ。

 そこに森口から携帯がかかる。そして彼が用意した爆弾は彼の母親の研究室に移され、そこで爆発したと告げる。

 自分を認めてほしい唯一の存在である母の死、しかも自分が殺してしまった・・・。
 半狂乱になった修哉に、講堂に現れた森口は「ここからあなたの更正の第一歩が始まるのです」ともっともらしい言葉をかけた後、「なーんてね」というのだ。

 背中がスーッと寒くなる。
 ここに込められているのは「あなたが更生するなんて思っちゃいない」というメッセージ、・・・これほど冷え冷えした悪意があるだろうか・・・。

 ただ、研究室がほんとうに爆破されたのかどうかは疑問も残る。じっさいには修哉は講堂を離れていないのだから、爆破シーンは彼の想像とも考えられる。
 そうなると森口の話は修哉を苦しめようとする残酷な嘘なのかもしれない。

 犯人Bの下村直樹(藤原 薫)、彼を溺愛する母(木村 佳乃)、修哉を唯一理解する同級生・美月(橋本 愛)、自らの偽善性に気づかぬまま森口に利用される教師・寺田、 ・・・登場人物たちの辿る結末はみな悲劇的だ。
 彼らのだれ一人として感情移入できる人物はいないけれど、それでもこれはシンドイ。

 エンタメとして楽しむにはあまりに重く、シリアスな話として受け止めるには希望がなさすぎて、見終わってどーんと暗い気持ちになった。
  【◎△×】6

▲「上に戻る」



inserted by FC2 system