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クリスマス・キャロル


1970年  イギリス  111分

監督
ロナルド・ニーム

出演
アルバート・フィニー
アレック・ギネス
デヴィッド・コリングス
エディス・エヴァンス
ケネス・モア
スザンヌ・ニーヴ

   Story
 イギリスの文豪チャールズ・ディケンズの短編小説のミュージカル映画化。
 守銭奴の老人がクリスマス・イヴに3人の幽霊に導かれて過去・現在・未来の旅をし、人とのふれあいを取りもど すさまをヒューマンなタッチで綴っている。

 19世紀半ばのロンドンの下町。
 クリスマス・イブというのに、ケチで冷酷で人間嫌いのスクルージ(アルバート・フィニー)は、賛美歌の流れる街の賑わいに背を向けて、 事務員のクラチット(デヴィッド・コリングス)にギリギリまで仕事をさせている。

 その夜、寝床についたスクルージを、仕事の元相棒で7年前になくなったマーレイ(アレック・ギネス)の亡霊が訪れる。

 そして、深夜1時、2時、3時に “過去” “現在” “未来” の3人の幽霊が現われて、スクルージにそれぞれの時代の彼の有様を見せるだろうと告げる。


   Review
 ディケンズの有名な小説、何度も映画化されているけれど、本作の収穫はスクルージに扮したアルバート・フィニーだった。
 『トム・ジョーンズの華麗な冒険』(67) の彼は、太陽のように明るくてほんとにハンサム、女にモテモテの原作通りのイメージだった。 そんなフィニーが数年も経たないわずか34歳で老人を演じているのに驚いた。

 目元のたるみや毛の薄い頭はメイクやかつらとしても、口元の歪みや背中を丸めて歩く格好は老人そのもの。声や喋りかたも老人になりきっている。
 彼の愛嬌のある個性のためか、ストーリーが進むにつれて、強欲で冷酷なスクルージがどこか憎めなく見えてくるから面白い。

 “過去” の幽霊(エディス・エヴァンス)と一緒に青年時代に戻ったスクルージ。今しもクリスマス・パーティの真っ最中。 みなはちきれんばかりの熱気で踊っている。ここで歌われる「12月25日」が素敵だ。

 若き日の自分を見て、スクルージが「わしはハンサムだった」と述懐するのにクスッ・・・。たしかに!
 初恋の人イザベル(スザンヌ・ニーヴ)との思い出にうっすら涙ぐむスクルージ、おや、まだ涙が残ってた? とまたまたクスッ・・・。

 キンキラ衣装の “現在” の幽霊(ケネス・モア)は、でっかいけど、ハクション大魔王みたいにキュートだ。

 はじめはおっかなびっくりのスクルージが、こわごわ飲まされた飲み物が美味しくて (大魔王、「思いやりのミルク」とかいってたけど、すぐワインになってた)、 何度もお替わりして、だんだんヘロヘロ上機嫌になっていくのが可愛い。根は悪い人じゃないんだよね、と思ってしまう。

 大魔王と一緒に甥のパーティにもぐり込み、若い頃によくやった “猫ゲーム” に熱中して、メンバーの間をクルクル回るのもいじらしいやら可笑しいやら。
 「あー、今夜は楽しかった・・・」と呟く様子に彼の寂しさがふっと寄せてくる。 これまでは歯牙にもかけずに来たんだろうけど、人とのつながりを求める気持ちはまだ残ってたんだ・・・。

 そして “未来” では、地獄に落ちて鎖でぐるぐる巻きにされる自分の姿に、ほうほうの体(てい)で悪夢から覚める。
 で、ここでスクルージが再会する元共同経営者マーレイに扮するアレック・ギネスだけど、この人ホントに見る映画見る映画、みんな違った顔してる。 本作はまだ本人の面影が偲べるかな?
 鎖をジャラジャラ巻きつけた鍵箱をぶら下げて、ちょっとナヨッとした歩きかた。妙な芸達者ぶりが可笑しい。


 目が覚めたスクルージ、まだクリスマスが終わっていないことに気づき、俄然、改心する。

 町中の人にプレゼントを配り、借金はみんな棒引き、事務員クラチットの給料を倍にし、ティム坊やの治療費を約束し、 ・・・サンタの扮装で町の人と一緒に歌い踊るスクルージはなんて幸せそうだろう。
 ここで歌われる「サンキュー・ベリー・マッチ」が何とも楽しい。気がつくと私まで指を振り振り「サンキュ・サンキュ・ベ〜リ〜・マーッチ!」と歌っている。

 この日の大番振る舞いをスクルージは翌日になって後悔しやしないかな・・・。
 そんな懸念も、彼が振り絞るように繰り返す「メリー・クリスマス!」の声で消し飛ぶ。それは町の人に対する彼の心からの「サンキュー・ベリー・マッチ」と分かるから。

 ティム坊やの歌う「美しい日」が胸にしみるやさしさ。ミュージカル版『クリスマス・キャロル』はなかなか楽しかった。
  【◎△×】6

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