Story 老境を迎え、それぞれ事情を抱えた7人の男女が、快適な老後を送るため移住したインドで織り成す人間模様を描 く。 『恋におちたシェイクスピア』のジョン・マッデン監督が、ジュディ・デンチらイギリスを代表する名優たちの豪華共演で描くヒューマンドラマ。 「マリーゴールド・ホテルで、穏やかで心地良い日々をー」 そんな謳い文句に惹かれて、マリーゴールド・ホテルの高齢者向け長期滞在プランに申し込み、シニア世代の男女7人がイギリスからインドに移住してくる。 夫を亡くしたイヴリン(ジュディ・デンチ)をはじめ、期待に胸を膨らませた彼らを待ち受けていたのは、宣伝文句とは裏腹のおんぼろホテルと異文化の洗礼だった。 それでも前金を支払った7人に選択の余地はなく、それぞれの生活を踏み出すのだが・・・。 Review 夫の古い友人の1人が、退職後、一時夫婦でマレーシアに移り住んだことがある。 物価は安いし、少ない年金でもけっこう楽に暮らせる、と毎週のようにゴルフ三昧の暮らしを伝えてきた。 旅行ではなく、いきなり異国で暮らし始めるってどういう感じなんだろう、と驚きながらメールを読んだものだった。 彼(か)の地に骨を埋めるつもりなんだろうか、と思ったりしたけれど、病いになったら心細くなったらしく、 急遽帰国して地元の病院に入院、回復後はマレーシアのことは忘れた如くに、日本で元の暮らしに戻っている。 本作では、年配のイギリス人たちが老後の暮らしの場としてインドを選び、そこで出くわすさまざまな出来事と、それによって人生を見つめ直す様子が描かれる。 長期滞在型のホテルっていうのが私にはも1つピンと来ないのだけど、欧米の映画にはちょくちょく出てくる。掃除・まかない・洗濯付きの下宿みたいなものなんだろうか。 3、4か月ごとに契約更新する、とでもいうような。 終(つい)の棲家としてはなんだか落ち着かない。ましてそれがインドとなると冒険だな〜。 気候や文化が違いすぎて、若い頃ならともかく適応能力の落ちた老年ともなるとどうなんだろう・・・。いささか二の足を踏んでしまう。 それだけに本作に登場する7人の老年男女の展開するエピソードのあれこれは、クスリとしながら身につまされる。 亡夫の借金返済のために家を売り、インドでの一人暮らしを決意したイヴリン、 退職金を娘の起業に貸したけれど失敗して、老後の計画が狂ってしまったダグラス(ビル・ナイ)とジーン(ペネロープ・ウィルトン)の夫婦、 股関節の手術のためにインドに来たミュリエル(マギー・スミス)、 異国で人生最後のロマンスを探すノーマン(ロナルド・ピックアップ)とマッジ(セリア・イムリー)、 訳ありの旧友との再開を果たすためにやって来たグレアム(トム・ウィルキンソン)・・・。 中でも私はイヴリンとミュリエルの2人が印象に残った。 ジュディ・デンチが演じるイヴリンはインドに来るとすぐに職をみつけて、この地に溶け込む努力をする。 これまで専業主婦で過ごしてきたにしては大変な行動力だけれど、夫との結婚生活に何がしかの虚しさを感じていたらしい彼女が、 未知の土地での暮らしをきっかけに人生の仕切り直しを決意したことが窺える。 女性ってこうした強さを内面に秘めていることが往々にしてある。自然体の姿は暮らしを楽しむ余裕になり、仄かなロマンスにつながっていく様子が微笑ましい。 対照的なのが、股関節の手術のためとはいえいろんな事情が重なって、来たくもないのに来てしまったミュリエルだ。 人種差別意識を隠そうともしない彼女は、ほんとは嫌味な人間かもね、と思いつつもマギー・スミスが演じるせいかどこかユーモラスで憎めない。 リハビリ・トレーナーのインド人男性や、身の回りの世話をする不可触賎民階級出身のインド人女性との交流で少しずつ変化していく様子に無理がない。 可笑しかったのは、頼まれもしないのにマリーゴールドホテルの帳簿をチェックして、再建策を検討するところ。いつの間にやらフロント係に収まって、 若返って綺麗になっているのには笑ってしまった。 デヴ・パテルが扮するお調子者のホテルのオーナー、ソニーと恋人スナイナが初々しい。 登場人物は年配者ばかりだけど、2人の若さがいい味付けとなって、なかなか面白かった。 【◎○△×】7 |