Story フィリップ・K・ディックの短編をスティーブン・スピルバーグ監督が映画化した近未来SFサスペンス。 2054年、ワシントンD.C.は犯罪予防局の設置で殺人事件はゼロとなっていた。 それは、“プリコグ” と呼ばれるアガサ(サマンサ・モートン)ら3人の予知能力者によって未来に起こる殺人を察知し、 事件が起きる前に犯人となる人物を捕まえるシステムを採用したためだ。 局長バージェス(マックス・フォン・シドー)の厚い信頼を受けて活躍していた主任刑事ジョン・アンダートン(トム・クルーズ)は、 ある日、自分が見ず知らずの人間を殺害すると予知されたことを知る。 追われる立場になったジョンは、司法省調査官ダニー・ウィットワー(コリン・ファレル)の執拗な追跡をかわしながら、 自らの容疑を晴らそうと必死の逃亡を始めるが・・・。 Review タイトルから戦場記者を主人公にした映画かと思ったら、2054年の近未来が舞台。 そこではプリコグと呼ばれる3人の特殊能力者がこれから起きる殺人を予知し、犯罪を防止している、という思いもかけない内容だった。 プリコグは殺人の起きる時間まで予知するので、犯罪予防局はプリコグの脳内予知映像から現場を特定し、あわやのところで加害者 (と指定された者) を取り押さえる。 オープニングの (未発生の) 事件防止プロセスは、近未来映画らしく警官たちの装備や動きが無機質かつスピーディ、おまけにパワフルで、とてもスリリングだ。 このシステムは現在はまだ実験段階だけれど、施行してからのワシントンD.C.の殺人発生率は0%、と予防局は鼻高々だ。でも、ちょっと待てよ、と思ってしまう。 殺人を犯すと予知された者は、実際にはまだ犯してはいないのだ。それなのに犯罪者として拘束され、禁錮され る。これはヘンだ。 それに殺人はなくなったとしても逮捕される者は減らないのだから、あらたに犯罪者 (と呼ばれる者) を作り出しているともいえる。 とシステムの矛盾が気になりだした途端に、機を合わせたように、 ストーリーは予防局の優秀な警官ジョン・アンダートンがなんと殺人者として予知されるという展開になった。 しかも被害者として指定された者は、ジョンが見たことも会ったこともない人間なのだ。 見も知らぬ人間を殺すと突然予知されたら、だれだって驚く。なぜだ、プリコグの予知能力は本当に正確なのか、と思うに違いない。 しかしジョンがそれを考えてる暇ない。 何しろ自分が追う立場だった時そうだったように、優秀な予防局の警官たちが司法省から派遣された調査官ダニー・ウィットワーの指揮のもと、 一刻の猶予もなく追ってくるからだ。 逃亡するジョンと追跡する警官たちの攻防は、VFXを駆使した映像が近未来社会の硬質な感覚を作り出して、激しいのにどこか冷っこく、とてもチャーミングだ。 網膜でその個人を特定するシステムがあらゆるところに張り巡らされ、定期的に “スパイダー” と呼ばれるクモ型ロボットが網膜スキャナーで住民たちを点検して回る。 プライバシーゼロの超監視社会だ。 ジョンは監視を逃れるために、眼球を丸ごと入れ替える手術をしたりする。(取り出した眼球も後でちゃんと使い道があったりするのだけど。) 逃亡の中でジョンは、プリコグがなぜそうした能力を持つようになったのか、彼らの予知にも誤差があることやそれがなぜか隠蔽されていること、 そしてジョンの殺人予知が予め仕組まれた罠であること、などを知るようになる。 司法省から派遣された調査官ウィットワーの目的が予知システムの不備を探るという設定がいい。 タイトルの “マイノリティ・リポート” の意味もこの中で明らかになるのだけれど、 じつはこの謎解きの部分になると、ストーリーが失速し、話の底が浅くなるのが惜しい。ふつうの推理物になってしまった感じだ。 黒幕などは登場させず、プリコグ・システムの不備や矛盾、それ巻き込まれたジョンの葛藤を追求したほうがスリリングだったのではないかと思う。 とはいえ斬新なアイデアとそれを視覚化した映像はなかなかのもの。 女性プリコグのアガサを連れての逃亡中、色とりどりの風船や雨が降り出して一斉に開く傘にまぎれて予防局の目を逃れるシーンがファンタジーめいて楽しかった。 【◎○△×】7 |