Story 離婚した両親に振り回される幼い子供の姿を通して家族とは何かを問いかけたドラマ。 19世紀末のイギリスの作家ヘンリー・ジェームズの原作を、現代を舞台を置きかえて描いている。 いさかいの絶えないロック歌手スザンナ(ジュリアン・ムーア)と美術商ビール(スティーヴ・クーガン)夫妻は離婚し、 6歳の娘メイジー(オナタ・アプリール)は共同親権を取った2人の間を10日ごとに行ったり来たりする暮らしだ。 そんな中、ビールは元シッターのマーゴ(ジョアンナ・ヴァンダーハム)と、スザンナはバーテンダーのリンカーン(アレキサンダー・スカルスガルド)と再婚する。 仕事や自分のことで忙しいビールとスザンナは、それぞれのパートナーにメイジーに世話を押し付ける。 若い2人と心を通わせていくメイジーだが・・・。 Review 大人たちの間に起こるさまざまなトラブルを6歳の子供の目を通して描いているという意味で中々面白かったけれど、 幼い子供の成長にとって必要なのは何? と考えた時、“安定” であることを教えてくれる点でも興味深かった。 具体的には「人との関係」と「生活環境」、ほかにも色々あるだろうけれど、この2つが安定していれば、とりあえず子供は安心して暮らしていける。 ・・・そんなことを考えさせる。 映画の冒頭で母親スザンナがメイジーに子守唄を歌うシーンがある。それが何と 赤ちゃ 眠れ、木のてっぺんで / 風が吹けば ゆりかごが揺れる 枝が折れれば ゆりかごが落ちる / 赤ちゃんも一緒に 落ちてしまう という歌詞なのだ。わ~、怖い・・・。 メイジーはウトウトし始めるけれど、まるで彼女の不安定な親子関係、生育環境を暗示しているかのようだ。 スザンナと夫ビールの夫婦関係はすっかり破綻していて、顔を合わせればわめき合い、罵り合う。娘のメイジーに は「最低」と相手をけなす言葉を吐く。 普通なら子供の心はズタズタになるところだけど、面白いのはメイジーが親のいざこざをクールにちょっと距離を置いて見ていることだ。 そしてそんな親でも「大好き」と思うことで心を保っている。なんていじらしいんだろうと胸がいっぱいになる。 離婚し、共同親権を取った両親の間を、メイジーは10日ごとに行ったり来たりすることになる。これでは子供は自分の居場所が分からなくなる。 母親がメイジーに贈った花束を父親がゴミ箱に捨て、それをメイジーが拾い出してこっそりクローゼットに隠す、というちょっと胸が痛くなるシーンがある。 そんな時、元シッターで父親の再婚相手のマーゴはその花束をみつけ出して、メイジーと一緒に押し花にする、「こうすれば永遠にとっておける」といって。 “永遠”=変わらずにいつもそこにある・・・。 メイジーにとってこれはなんて安心できることだろう。子供の心に寄り添うマーゴの優しさが感じられる。 そしてもう一人、スザンナの再婚相手、リンカーンも子供の心を失わない素敵な青年だ。 メイジーがお城の絵を描いていると、彼はそれならお堀があったほうがいい、お堀には動物がいたほうがいい、とアドバイスする。 そして、終盤メイジーとマーゴが夏を過ごしている海辺の家に訪ねてくると、お堀にちょうどいい動物がいる、といって土産の絵本を開くのだ。 一緒に過ごした時間が「点」ではなく「線」として、“今” に続いている。子供にとってこんな安心なことはない。 メイジーをマーゴに預けっぱなしで仕事の拠点をイギリスに移してしまう無責任な父親ビール、 メイジーとリンカーンが仲良くなると、娘を奪(と)られたみたい嫉妬する母親スザンナ、 2人とも娘を愛しているに違いないけれど、でもそれは自分中心の身勝手な愛だ。 一方、楽しみや寂しさを共有し、メイジーに心と暮らしの居場所を与えるのがマーゴとリンカーンだ。 3人が手をつないで公園で遊ぶサマはまるで本当の親子のよう。見ているだけでほほえましい。 ラスト、ツアーに連れていくといって迎えに来たスザンナに、 メイジーは「行かない」と伝える。「明日、ボート(漁船)に乗る」というスザンナとリンカーンとの約束を優先させたのだ。6歳の女の子の清々しい自立の第一歩だ。 さらに自然の流れの中で、幼い彼女は若い2人を結びつけていく。 オナタ・アプリールの愛らしさ、表情にふっと差す翳りや戸惑い、喜びなど演技とは思えないメイジーそのままの在りように驚いた。 【◎〇△×】7 |