HOME50音表午後の映画室 TOP




見知らぬ乗客


1951年  アメリカ  101分

監督
アルフレッド・ヒッチコック

出演
ファーリー・グレンジャー
ロバート・ウォーカー
ルース・ローマン
レオ・G・キャロル
ローラ・エリオット
ジョナサン・ヘイル

   Story
 『太陽がいっぱい』のパトリシア・ハイスミスの完全犯罪小説を映画化したヒッチコック監督の傑作サスペンス。

 テニス選手として名が通っているガイ(ファーリー・グレンジャー)は、故郷へ向かう列車の中で見知らぬ男に声をかけられる。

 ブルーノと名乗るその男(ロバート・ウォーカー)は、ガイが妻ミリアム(ローラ・エリオッ)と不和であることを知っており、 ミリアムを殺してやるから代わりに自分の父親(ジョナサン・ヘイル)を殺してくれと交換殺人を持ちかける。

 ガイは一笑に付すが、ブルーノはじっさいにミリアム殺害を実行し、ガイにも返礼殺人を迫る。
 そして拒めば車中でかすめたガイのライターを殺人現場に置きに行く、と脅迫するのだった・・・。


   Review
 まず、オープニングの2人の男性が列車に乗り込むまでを足元だけを交互に写す映像に、オッ・・・、と引き込まれた。 1人は落ち着いた上品な仕上がりの靴、もう1人は白黒の派手なコンビだ。こんな靴を履くなんてどんな男だろう、と気が引かれる。

 案の定、主人公ガイに馴れ馴れしく、そして妙に粘っこく話しかける男の足元に目をやると、あのコンビの靴だ。これだけでもう、この男剣呑だよ、と感じさせてしまう。
 『疑惑の影』(43) でも感じた導入の巧みさは、ヒッチコックならではのものだなと思う。

 動機のないものが殺人を行い、動機のあるものにはアリバイがある、という “交換殺人” のアイデアは、 委嘱殺人目的でネットで知り合い、実際に犯罪が実行される現代と違って、本作の製作当時はずいぶんと斬新な発想だったんじ ゃないかと思う。
 (一方で、現代はそれだけ異常な時代だとあらためて思わされるけれど。)

 ガイが真に受けなかったのは当然だ。だから、いくら不仲とはいえ、妻ミリアムがじっさいに絞殺死体で発見された時はどれだけ驚いたか容易に想像できる。

 内心の焦り、不安・・・。
 しかし、映画はそうしたガイの内面に立ち入るよりも、代替殺人を迫るブルーノの異常さに焦点を当てることで、スリルを高めている。 たとえば、ガイの行く先々に現われ影のように佇むブルーノの姿は、不気味で、それだけで背中がゾクリとする。

 テニスの試合中、観客がボールを追って一斉に顔を左右に動かす中で、ただ1人、じっと自分を見つめる男がいる・・・。 ガイがふとそれに気づく有名なテニスコートのシーン。
 中でも、ブルーノが夜の遊園地でミリアムを絞殺する様子が、割れた眼鏡に大きく歪んで映るシーンは、彼の異様さを象徴的に表わして秀逸だ。

 ブルーノ役のロバート・ウォーカーはそれまではごく普通の真面目な役柄を演じていたそうだ。ほんと?と思ってしまう。 それくらい、ストーカーめいたねちっこさも含めて、『フレンジー』(72) のバリー・フォスターに匹敵する変質者っぽさだ。
 ファーリー・グレンジャーが扮したガイはハンサムな好青年だけど印象が薄く、クセのなさがかえってワリを食ったかもしれない。


 クライマックスはなんといっても遊園地の回転木馬のシーンだ。 心棒が外れた回転木馬ってあんなにすごい勢いで回るの! もう怖くて、何でもない時でも乗れそうにない。
 猛スピードで回転する木馬上のアクションの迫力といったら・・・!

 そして老人の係りが木馬台の下にもぐり込んで、回転を止めるために心棒の向こう側に這っていくシーン。
 老人がいくら痩せて小柄とはいえ、台の下は狭い。背中が引っかかったら、とドキドキして胸が苦しくなる。 回転木馬台を挟んで上と下、「動」と「静」のスリルを交互に見せていく手法はさすがだと思う。

 ストーリーもだけど、それ以上にこうした演出法がヒッチコックらしくて面白かった。
  【◎△×】7

▲「上に戻る」



inserted by FC2 system