Story 永井豪原作のTVアニメ「鋼鉄ジーグ」をモチーフに、偶然に超人的な力を得た男がアニメ「鋼鉄ジーグ」に憧れる若い女性を守るため、 闇の組織と戦う姿を描くクライム・アクション。 テロが頻発するローマ郊外。 窃盗で食いつなぐエンツォ(クラウディオ・サンタマリア)は、警察に追われて飛び込んだ川で放射能を浴び、鋼の肉体と超人的パワーを手に入れる。 初めはその力を悪事に利用するだけのエンツォだったが、世話になっていた故買屋セルジョ(ステファノ・アンブロジ)が殺され、 その娘アレシア(イレニア・パストレッリ)の面倒を見るハメになる。 アレシアは日本製アニメ「鋼鉄ジーグ」の大ファンで、超人的パワーを持つエンツォをジーグと同一視して、慕うようになる。 そんな中、闇組織のボス、ジンガロ(ルカ・マリネッリ)の脅威が2人に迫る・・・。 Review “鋼鉄ジーグ”・・・、なんか聞いたことがある、と思ったら永井豪の漫画の主人公だそうだ。 コミックやアニメなど日本のサブカルチャーが欧米で「クール (かっこいい)」と人気らしい。 フランスで開かれたジャパン・コミックマーケットのニュースを見たことがあるけれど、来場者がみんな奇抜な衣装なのに驚いた。 コミックの人気キャラクターのコスプレらしい。 本作もそんなジャパン・サブカル人気の証左といえるのかな、と思いつつも、40年も前の漫画がイタリア映画の素材としてよみがえるなんて、 やっぱりちょっと驚いてしまう。 といっても永井豪の “鋼鉄ジーグ” がそのまま実写化されているわけではない。 モチーフになっているだけなのだけれど、不思議とほかにも日本の映画や小説を連想させるところがあって、面白い。 例えば、主人公エンツォが不死身の身体と超人的パワーを手に入れるのが、川底の核燃料廃棄物の放射性物質を浴びたため、というところ。 そう、日本が誇る怪獣ゴジラみたい! 核実験で甦ったゴジラは放射能を撒き散らし、町を破壊して人々を恐怖に陥れる。動き回るだけでその気もないのに “悪” を働く訳だけれど、 エンツォもATM機を設置場所から引っ剥がして現金を盗んだり、現金輸送車を襲ったり、せっかく得たパワーを悪に使うのだ。 アメリカン・コミックヒーローのような正義の味方のかっこよさはゼロ。そこがなんともいえずイタリア的だし、いい。 その2。エンツォってイタリア版 “木枯し紋次郎”。「放っといてくれ」とかいいながら、世話になった故買屋の親父セルジョが死んで、 娘アレシアがギャングに痛めつけられているのを見ると、自分から飛び込んでいって救ったりする。 あっしには関わりのねぇことで」といいながら関わっていく紋次郎さながらだ。 でも彼は紋次郎のようにクールでもニヒルでもない。おっさんぽい見かけの割に女に不器用で初心(うぶ)だ。 アレシアの誘いに戸惑い、切なそうな表情をするのが可愛いかったりする。 だからアレシアが思いがけなく死んだ時、話は2人の悲しいラブロマンスで終わるのかと思ったら、とんでもない方向に展開していく。 なんと敵役のギャングのジンガロまでが放射能に汚染した川水を浴びて、鋼の肉体と超人パワ ーを手に入れてしまうのだ。 このジンガロ、ほんとに悪の塊、チョー怖い。アレシアは(悲惨な生育などいろいろあって)痛ましく心を病んでしまっているけど、 ジンガロは人格そのものが壊れている。 そんな悪党が超人的力を手に入れてしまうのだ。どうなるの?と不安になる。 それからは文字通りエンツォとジンガロの肉弾相撃つ闘いだ。最近のIT戦を見なれた目には、肉体を使った原始的な闘いがかえって新鮮に映るのが面白い。 安っぽいただの泥棒だったエンツォが善に目覚めるシーンが美しい。 郊外の公道で衝突炎上した車の中に幼い女の子が取り残されているのを知ると、警官たちの眼の前で少女を救い出す。 エンツォを “鋼鉄ジーグ” と信じるアレシアの、「世界を救って」という言葉が心の中で響いていたのは間違いない。 彼を “怪力のスーパークリミナル” ではないかと疑っていた警官たちでさえ畏敬の眼差しで見守る。 感謝の涙を流しながらエンツォを抱きしめる母親。ちっぽけな人生の中で、彼は初めて人に感謝されたのだ。 胸に湧き上がる温かな波を噛みしめるエンツォの表情がなんともいえない。 この思いがエンツォを支えて、終盤のジンガロとの闘いにつながっていくことになる。 【◎○△×】6 |