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密偵


2016年  韓国  140分

監督
キム・ジウン

出演
ソン・ガンホ
コン・ユ、ハン・ジミン
鶴見 辰吾、オム・テグ
イ・ビョンホン

   Story
 1920年代の日本統治時代の朝鮮半島を舞台に、武力で独立を勝ち取ろうとする団体と、密偵を放ってその動きを監 視する日本警察の攻防を描くサスペンス・ドラマ。

 1920年代、日本統治下の朝鮮半島。独立を目指す武装組織 “義烈団” が過激な活動を繰り広げている。

 朝鮮人でありながら日本警察に所属するイ・ジョンチュル(ソン・ガンホ)は、上司のヒガシ警務局部長(鶴見 辰吾)から義烈団監視の特命を受ける。

 義烈団の地域リーダーで、表向きは写真館兼古美術商を営むキム・ウジン(コン・ユ)に接近し、懇意の仲となるジョンチュル。
 一方、義烈団は主要施設を標的にした爆破テロのために、大量の爆弾を京城へ運ぶ作戦を進めていた・・・。


   Review
 日本が韓国を植民地統治したのは、1910年から日本が第二次世界大戦で敗北する1945年までの35年間のことだ。 それが長いのか短いのか私には判断できないけれど、それが今も日韓の関係に暗い影を及ぼしているのは疑いようもない。

 本作はその日本植民地時代の韓国・京城 (ソウル) で、テロによって日本からの独立を図ろうとする武力団体 “義烈団” と、 それを抑え込もうとする日本警察との熾烈な戦いを、日本の密偵として監視と摘発に従事する朝鮮人警察官の目を通して描いている。

 イ・ジョンチュルは朝鮮人でありながら、日本人の手先として同胞の独立運動を弾圧する日本警察の警務だ。
 かつて上海の臨時政府で通訳として働いていた時、そこで得た情報を日本警察に売った縁で今の地位を得たというから、時流を読んで立ち回るのがうまい人間なのだろう。

 それでも、自分の立場に矛盾や葛藤はないのだろうか、とごく自然に思う。

 冒頭、義烈団のメンバー、キム・ジャンオクが日本警察に取り囲まれ追いつめられるシーンがある。全体に淡々と抑制的なタッチで進む本作の中で出色のアクションシーンだ。

 ジョンチュルが上海時代の親友ジャンオクを穏便に取り押さえようと、「独立なんて夢物語だ。この船はじきに沈む」と語りかける。 するとジャンオクは「ネズミは逃げ足が速い。俺は人間だ。ネズミじゃない」といって拳銃自決してしまうのだ。他国に支配された怒りと自負がほと迸る死だ。

 ジャンオクはこのシーンだけで姿を消すけれど、彼の死、そして彼の放った言葉はジョンチュルの心に痛烈な影を落としたように思える。

 ジョンチュルが警務部長のヒガシに卑屈なほど従順に従いながら、義烈団団長チョン・チェサン(イ・ビョンホン)の申し出を受け入れて二重スパイになるのは、 チェサンの人間的な魅力や義烈団幹部キム・ユジンへのひそかな共感、密偵として組織に入り込めというヒガシの命令もさることながら、 親友を死なせてしまったという痛みが無意識裡に彼を動かしたからではないかと思う。

 終盤、ヒガシ部長主催の警務局クラブの晩餐会で、ジョンチュルはユジンに託された爆弾を大広間に仕かける。
 華やかにさざめく参列者を眺めながら満足の笑みを浮かべるヒガシ。 届けられた封筒を開けると、中から「死亡」と大きく朱印の押されたジャンオクの戸籍票が出てくる。


 ハッとしたように辺りを眺めまわすヒガシ、広間の隅からワイングラスを掲げて見せるジョンチュル、その瞬間起こる大爆発・・・。 従順な犬、と見くびっていた対日協力者の見せた最後の意地だ。演じるソン・ガンホのいつもながらの存在感あふれる名演に引き込まれる。

 ヒガシの指示でジョンチュルと組むことになる日本人警官ハシモト(オム・テグ)の狂気すら感じさせる不気味さ、 そして何より一見物分かりの良い上司ヒガシの徐々に見せる冷酷さ。ジョンチュルが二重スパイとして動いていることを掴みながら、 それすら利用するしたたかさなど底の知れなさを感じさせる鶴見辰吾が印象的だ。

 独立運動をめぐってさまざまに展開される義烈団と日本警察の駆け引きがスリリングだ。

 さらに、金になるなら同胞を売ることも辞さない老古美術商、爆弾テロで独立が果たせるわけがないと絶望し、組織を裏切る義烈団団員など、 他国に支配される側の複雑な心情がリアルに描出されて、とても興味深かった。
  【◎△×】7

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