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モーリス


1987年  イギリス  140分

監督
ジェームズ・アイヴォリー

出演
ジェームズ・ウィルビー
ヒュー・グラント
マーク・タンディ
ルパート・グレイヴス
ベン・キングズレー
フィービー・ニコルズ

   Story
 20世紀初頭のイギリスを舞台に、当時は犯罪として禁じられていた同性愛という悩みを抱えた青年たちの姿を描く フォースターの自伝的小説の映画化。

 1909年、ケンブリッジ大学。
 キングス・カレッジの寮生モーリス(ジェームズ・ウィルビー)は、討論会に参加するために訪れたトリニティ・カレッジでクライヴ(ヒュー・グラント)と出会う。

 ギリシャ古典理想主義に傾倒するクライヴは同性愛を美と捉え、夏のある日、モーリスに愛を告白する。
 はじめは反発しながらも、モーリスもクライヴとの男同士のプラトニックな愛にのめり込み、2人の親密さは増していく。

 1911年、大学を卒業した2人は、モーリスは株の仲買人、クライヴは法廷弁護人として、それぞれの道へ進む。
 そんな頃、大学で同期だったリズリー(マーク・タンディ)が同性愛者として風紀紊乱罪で逮捕され、 ショックを受けたクライヴは、ギリシャ旅行で知り合った女性アン(フィービー・ニコルズ)との結婚を決意する・・・。


   Review
 若い頃のヒュー・グラントの美男ぶりを見たくて鑑賞。夫は男性間の同性愛ものが苦手なので、どうなのかな? と心配だったけど、 監督がジェームズ・アイヴォリーだけに格調ある演出で、神妙に見ている様子にホッ・・・(笑)。

 クライヴを見ていて、もう半世紀以上も前、子供の頃に流行った、主人公の女の子が上級生あるいは同級生の美少女に憧れ、そして親しくなる、 という少女小説のパターンを思い出した。
 いつでもどこでも一緒の2人は “S” と称されるけれど (Sisterの略かと思う) 、こうした少女趣味的な関係は今風に見ればちょっと同性愛っぽかったかもしれない。

 思い起こすと思春期の女の子って、親友ともなればなにをするのも一緒 (同級生でトイレに行くのも一緒というカップルもいた)、違う人と仲良くしたりすると裏切り者扱い、 まるで恋人同士みたいだった。

 そのうちにだんだんお互いに窮屈になり、やがて異性に関心が移って思春期を卒業する。 そんな “S” の関係は、クライヴのモーリスに対する心の変化にそのまま当てはまる。


 クライヴは、スラリと背が高くて金髪のモーリスに憧れを抱き、それを愛と思ったのだろう。
 けれども「汚れる気がする」といって性的な関係を拒否するのは、彼の愛は頭でっかちの精神的なもので、ほんとうはゲイでないことの表われに思える。

 それでもお互いに「自分は相手にとって特別の存在だ」という恋愛に似た微妙な感情があり、“親友” として親密な付き合いを続けたのだろう。

 そんな中で大学で同期だったリズリーが同性愛の罪で逮捕され、重労働の刑に処されたのを見て、クライヴは現実に目覚める。 彼の結婚はモーリスを捨てたとか裏切ったとかではなく、青年期の感傷を卒業し、男性として本来の自分にもどっただけなのではないかと思う。

 手を振って遠のいていくモーリスの幻を見つめるクライヴ、・・・彼の目はかつてモーリスと共有した青春への懐かしさと、それが去っていく寂しさを噛み締めているように見える。 こうして彼は大人の男として歩みだして行くこ とになる。

 大変なのは置き去りを食ったモーリスだ。彼のせいで自分の性向に気づかされ、 クライヴが去った後はその心の隙きを見透かされたように猟番の若者スカダーに急襲されて関係を持ってしまう。

 スカダーの粗野なまでに一途な求愛に戸惑い、不安を覚え、怯える彼は、恋愛馴れしないお坊ちゃんという感じで可笑しくなる。

 一方、スカダーは驚くほど迷いがない。ボートハウスで待っている、とモーリスに訴える様子がいじらしい。

 ここで壁になるのが2人の属する階級の違いだ。中産階級のモーリスは下層階級のスカダーに2人の関係を脅迫の材料にされるのではないかと猜疑心を持ち、 スカダーはスカダーでそんなモーリスを信じきれず、拗ねたり脅したりする。そんな2人のやり取りはまさに恋のプロセスそのものだ。

 すれ違いの末に、ボートハウスで2人が愛を確かものにするシーンは、ハッピーエンドになるのかなぁ〜。 同性愛が風俗紊乱罪で処罰される時代のこと、見ているコチラとしては先行きの不安のほうが大きかったりして・・・。

 ジェームズ・ウィルビーの個性がやや弱いのが残念。ヒュー・グラントと役どころを変えても面白かったかも知れない。 ルパート・グレイヴスの激しさと繊細さを併せたもったスカダーが印象に残った。
  【◎△×】7

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