Story 恋人と南イタリアのシチリア、パンテッレリーア島で夏を過ごすロック歌手のもとに、元パートナーが押しかけてきたことから起こる騒動を描く人間ドラマ。 世界的なロック歌手マリアン(ティルダ・スウィントン)は、年下の恋人で、無名の撮影監督ポール(マティア ス・スーナールツ)と南イタリアのシチリア、パンテッレリーア島でバカンスを楽しんでいる。 痛めた声帯の手術をしたばかりなので、マリアンはまだほとんど声を出すことができない。 そこに元恋人の音楽プロデューサーのハリー(レイフ・ファインズ)が、娘ペン(ダコタ・ジョンソン)を連れて訪ねてくる。 陽気でエネルギーに溢れたハリーの出現で、マリアンとポールの静かな暮らしは一気に大混乱。 ハリーはマリアンに復縁を迫り、ペンはポールへの好奇心をつのらせて・・・。 Review 冒頭、のっけに陽光あふれるプールで全裸で戯れる男女。 リッチなリゾート地で繰り広げられるセレブたちのゴージャスなバカンス、とやたらカタカナが頭に浮かんでくる。 でもそれにしてはちょっと変。女性がまるっきり口を利かない。それに合わせて男性もあまり物を言わないから、はじめはまるで無声映画のよう。 女性はロックのスーパースター、マリアン。喉を痛めて手術をしたために、声が出せない。(ほんとは囁き声くらいは出るけれど、 面倒だから、人前では出ないことにしている。) 男性は撮影監督のポール。ハンサムで、その上献身的にマリアンの世話をする素敵な年下の恋人だ。 2人はマリアンの術後の休養を利用して、シチリアの小さな島、パンテッレリーアでバカンスを過ごしているとこ ろなのだ。 ここにマリアンの元恋人で音楽プロデューサーのハリーが押しかけてくる。やたら饒舌で軽薄で、騒々しいことこの上ない。 演じるレイフ・ファインズがこれまでの彼とは真逆のイメージでびっくりさせられる。 去年はじめて存在を知ったという娘のペンを連れて、ホテルが取れないからとマリアンたちの別荘に転がり込み、友人たちを呼び込んで、好き勝手のし放題。 はじめは再会を喜んでいたマリアンも、ポールとの暮らしをかき乱されてだんだん迷惑顔だ。 一方、ポールはそんなハリーを寛大に受け入れ、マリアンがハリーと睦まじい様子を見せても怒りもしない。 じつは彼とハリーは旧知の仲で、ハリーがポールにマリアンを譲った間柄なのだ。 その上、ペンは自分に全然関心を示さないポールに業を煮やしたように、彼を誘惑し始める。一見何も起こらないリゾート地がじわじわ妙な空気に包まれていく。 じつはポールには触れられたくない過去があった。そこにハリーが無遠慮にズカズカ踏み込んでいく。娘のペンにもあけすけに話しているらしい。 おまけに、今になってマリアンと別れたことを後悔し、復縁を迫るために押しかけてきたと分かってくる。 これはもうただで済むはずはない、と思っていると、案の定、事件が起こる。 ラスト、豪雨の中のピーポー、ピーポーにドッキリさせられるけれど、 捜査担当警部がマリアンにサインをおねだりするためと判って、(死んだハリーには悪いけど) ホッとしたりして・・・。 ところでハリーの娘ペンだけれど、そもそも彼女がハリーと一緒にここに来たのは、母親が恋人とバカンスを楽しむために娘が邪魔になったためらしい。 ハリーのことだって「ほんとに父親かどうか分からないと」思っている。 だからだろうか、彼が死んでもどこか他人事(ひとごと)のような感じだ。 22歳というのも嘘で、ほんとは17歳。 事件の取り調べで大人たちが英語とイタリア語でコミュニケーションに苦労している時も、ほんとはイタリア語が流暢なのに、知らん顔で傍観している。 マリアンにそれを責められると、「私は一人が好きなだけ」と言い放つ。 彼女を見ていると、始まったばかりの人生に早くも傷つき、倦んでいるのを感じる。 マリアンに頬を張られて、はじめて自分に本気で向き合う大人に出会ったのかな、と思ったり・・・。 飛行機の搭乗口で振り返ったペンの目に、パンテッレリーアで過ごした夏はどう映ったのだろう・・・。 主演のティルダ・スウィントン、実力派とはいえロック歌手はちょっと苦しいかな・・・。前衛芸術家という設定のほうがよかったかも。 でも、声がほとんど出せない中で、表情・仕草だけの感情表現はさすが。心理サスペンス小説を読むような味わいだった。 【◎○△×】7 |