HOME50音表午後の映画室 TOP




ノア 約束の舟


2014年  アメリカ  138分

監督
ダーレン・アロノフスキー

出演
ラッセル・クロウ
ジェニファー・コネリー
レイ・ウィンストン
エマ・ワトソン
アンソニー・ホプキンス
ローガン・ラーマン
ダグラス・ブース

   Story
 旧約聖書に創世記に描かれた「ノアの方舟」の物語を、『レスラー』『ブラック・スワン』などのダーレン・アロノフスキー監督が、 壮大なスケールで映像化したスペクタクルドラマ。

 ある夜、ノアは恐ろしい夢を見る。それは大洪水が起きて、堕落した地上の人々が一掃されるというものだった。

 これを神の啓示と悟ったノア(ラッセル・クロウ)は、妻ナーマ(ジェニファー・コネリー)、 3人の息子たち、セム(ダグラス・ブース)、ハム(ローガン・ラーマン)、ヤフェト、そして養女イラ(エマ・ワトソン)とともに、巨大な箱舟を作り始める。

 地上にある全ての種類の動物たちがやって来て、次々に乗船する。

 異変を察したトバル・カイン(レイ・ウィンストン)は、群衆を率いて舟を奪いにやってくる。壮絶な戦いの中で激しい豪雨が大地をおおい始める・・・。


   Review
 旧約聖書の中の物語ってけっこう好きで、そこから題材を取ったと言われるとつい見てしまうけど、本作は予想していたのとはまるで違っていた。

 「ノアの方舟」というと、人類が滅亡するほどの大洪水や、すべての種類の動物が一つがいずつ方舟に乗船し、 オリーブの枝をくわえた鳩が洪水が終わったことを告げて舟はアララトの山頂に漂着する、など一見とてもスペクタクルでドラマティックに思えるけど、 よく考えると本当はとても映画になりにくい話のような気がする。

 旧約聖書では、ノアがみなに神のお告げを告げて洪水に備えるように助言するけれど、だれも本気に受け止めない、というくだりがあった (ような) 気がするけど、 ドラマがあるとすればせいぜいこの辺りくらいか・・・。
 洪水が始まってしまえば、方舟の中でノアの一家は動物の世話をしながら洪水が収まるのを待つだけだから、物語にはなりにくい。


 では本作ではどんな風にドラマを作っているのかというと、まずノアの人物造形にびっくりした。

 ふつう「ノアの方舟」は神が、堕落して悪徳にふける人間を懲らしめ滅ぼし、心正しきノアとその一族だけを残すために洪水を起こす物語、と解釈する訳だけど、 ノアはなんと人間の存在そのものを悪と考えるのだ。
 人間は未来永劫、この世に存在してはならない。だから自分たち家族もいずれ死に絶えるべきであり、子孫を残してはならない、というのだ。

 長男セムと養女イラが愛し合うようになり、イラが身ごもると、生まれてくる子供も殺そうとする。(男児なら生かすが女児なら殺す、 なぜなら女は身ごもる (→子孫が続く) から、という辺りは理論の破綻を感じない訳にいかないけど。)
 話が進むほど (神の目から見て) 正しき人のはずのノアがどんどん狂人に見えてくるのに辟易させられる。

 ノアと対決するのが、ノアの父を殺した宿敵トバル・カインだ。
 彼は「神は人間が飢えても助けてはくれない。人間は欲しいものは自分の手で得るほかない」と主張する。つまり彼は神が沈黙することを非難するのだ。

 イングマール・ベルイマン監督の映画や遠藤周作の小説などを見ても、“神の沈黙” は信仰者にとってとても重い問題のようだ。

 信仰者でない私でも、神が沈黙するなら人間は自分の力で自分を守るほかない、というトバル・カインの言い分はよく分かる。
 とはいえ、彼のやり方は暴力で一方的に他者から奪うだけだから、やっぱり「チョット待って」になる。

 こんな具合でノアにもトバル・カインにも肩入れできず、宙ぶらりんで話が進むので、どうにも落ち着きが悪い。

 例えばノアが「人は自然や動物と共存していけるのか。生きるに値する存在なのか」と懊悩するシーンでもあれば、この映画のテーマがもっとはっきりと伝わってきたかな、 とも思うけど、なにせ演じるのが汗臭いラッセル・クロウだけに、マッチョな側面ばかりが表に出てしまう。

 どこに着地点を見つけるんだろう、としまいには心配になってきたほどだ。 ハリウッド映画お定まりの「愛」にもっていったのはホッとする一方、安直な感じも拭いきれず、モヤモヤ感が残った。
  【◎△×】6

▲「上に戻る」



inserted by FC2 system