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ラビング 愛という名前のふたり


2016年  アメリカ  123分

監督
ジェフ・ニコルズ

出演
ジョエル・エドガートン
ルース・ネッガ
テリー・アブニー
マートン・ソーカス
ニック・クロール、ジョン・バス
マイケル・シャノン

   Story
 州によっては違法とされていた異人種間の結婚を認めさせ、法律を変えるきっかけとなった白人と黒人の夫婦の実 話を映画化。

 1958年、大工のリチャード・ラビング(ジョエル・エドガートン)は、恋人の黒人女性ミルドレッド(ルース・ネッガ)から妊娠を告げられ、結婚を申し込む。
 バージニア州では異人種間の結婚は禁じられていたため、2人はそれが認められているワシントンD.C.で結婚の手続きをする。

 地元に戻った2人は新生活をスタートさせるが、ある日突然、逮捕される。
 罪状は州法違反。離婚か有罪かの選択を迫られた2人は執行猶予付きの条件で罪を認めるが、それはバージニアを離れることを意味した。

 執行猶予期間は25年。2人はワシントンD.C.に移り住み、その間に3人の子供に恵まれる。
 ある日、ミルドレッドは友人に勧められ、司法長官ロバート・ケネディに手紙を書く。時代は公民権運動の高まりを迎えていた。


   Review
 映画の背景となっているのは1950〜60年代。 それほど遠い昔とは思えないけれど、アメリカでは白人と黒人の結婚が法律で禁じられている州がいくつもあったと知ってほんに驚いた。
 アメリカを進歩と自由の国とシンプルに思っていた若い頃と違って、現実がそのまま等身大に見える現在でさえ、 こんな州法がかつて存在したなんて、さすがに思いもしなかった。

 ミルドレッドの妊娠を知った時のリチャードの素朴な喜び、そしてプロポーズは、彼の愛が本物である証しだ。
 ところが結婚し一緒に暮らし始めた2人は「州の風紀と平安を乱した」という理由で逮捕される。一体どこがどう “風紀と平安を乱す” というのだろう。 ただもう驚くほかはない。

 ミルドレッドがロバート・ケネディ司法長官に手紙を書いたことがきっかけで、2人はアメリカ自由人権協会の存在を知り、その支援を受けて提訴することになる。


 本作は序盤と終盤に対応するシーンが表われて映画の意味や感慨を深くしているけれど、人権派弁護士コーエン(ニック・クロール)が、 終盤、最高裁の法廷で「異人種間の結婚の何が州にとって危険なのか、人々にとっていかなる脅威となるのか」と弁論するのはその1つだろう。

 こんな自明なことが通るまでに、2人が結婚してから10年という歳月を要するのだ。

 対比はまだある。序盤、公道でのカーレースや夜、若者が集ってのダンス、農場での労働の様子が描かれる。
 「先住民、白人、黒人が入り混じり、ごちゃまぜになって暮らしている」というセリフが出てくるけれど、 たしかにどのシーンでも白人、黒人は別け隔てなく付き合い、働き、ともに暮らしている。

 しかし終盤、地方裁、高等裁、と敗訴が続き裁判が長引く頃、リチャードは昔なじみの黒人の飲み仲間から、「肩身が狭いだろう。離婚すれば済む話だ」と嫌味を言われる。
 “いくら黒人とつるんでも所詮お前さんは白人だ、白人の世界に戻りな” という黒人の深い屈託に触れた気がして、ドキリとさせられる。

 しかしリチャードは何も言い返せない。
 帰宅した後、そんな自分が悔しくて、ミルドレッドに「俺はお前を守る。絶対に守る」といって泣く。
 口下手で、実直だけが取り柄の無学な労働者のリチャード。その広い肩幅がいじらしくて、ホロリついでにクスリ とさせられる。

 人種差別が前提となっている本作、人権問題という切り口も十分あり得るけれど、 この映画が心に染みるのは、愛しあう2人の「生まれ育った故郷で暮らしたい」という、シンプルで当たり前の願いに焦点を絞ったからだろう。

 シャイで愛らしい前半の控えめな立ち位置から、後半は夫を説得して裁判に持ち込むしっかり者の妻ミルドレッド。
 無骨で思うことをうまく表現できず、提訴については妻にリードされつつも、彼女の判断を信頼し従う夫リチャード。 主役を演じるルース・ネッガ、ジョエル・エドガートン、2人の俳優がなんともいえずいい。

 最高裁が “異人種間の結婚を禁止するのは違憲” とする判決を出し、2人が長い裁判闘争に勝利するシーンのさり気なさが印象的だ。
 コーエンから電話で報告を受けたミルドレッドは、庭に出て、黙ってリチャードを見つめる。
 車のボンネットを覗き込む夫、周りを駆け回る子供たち、・・・ありふれた日常の光景・・・。 それを勝ち取るまでの長い年月を、彼女は深い喜びの中で静かに噛みしめていたのだろう。

 映画のラスト、リチャードは広い野原の一角に家を建て始める。それは冒頭、ミルドレッドにプロポーズした彼が、2人の家庭を作るために購入し、彼女に見せたあの土地だ。
 ここにたどり着くまでの10年という年月を思い、2人の強い愛と絆に静かな感動が寄せてきた。
  【◎△×】8

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