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レイルウェイ 運命の旅路


2013年  オーストラリア/イギリス  116分

監督
ジョナサン・テプリツキー

出演
コリン・ファース
ニコール・キッドマン
ステラン・スカルスガルド
真田 広之
サム・リード
ジェレミー・アーヴァイン、
   Story
 第2次世界大戦時、 タイとビルマを結ぶ “泰緬(たいめん)鉄道” の建設に日本軍捕虜として従事したイギリス人将校エリック・ローマクスの自叙伝の映画化。

 イギリスの退役軍人エリック・ローマクス(コリン・ファース)は、列車で偶然、乗り合わせた女性パトリシア (ニコール・キッドマン)と恋に落ち、結婚する。

 平穏な日々を過ごしているかに見えるエリックだったが、第2次世界大戦中のトラウマに今も苦しめられていた。

 シンガポール陥落で日本軍の捕虜となった彼は、泰緬(たいめん)鉄道の敷設に駆り出され、悪夢のような日々を送ったのだ。

 そんなある日、退役軍人仲間のフィンレイ(ステラン・スカルスガルド)から、 当時施設にいた日本人通訳・永瀬隆(真田 広之)が、今もタイでガイドとして暮らしていると知らされる・・・。


   Review
 第2次大戦中、タイ〜ビルマ間の物資輸送路として旧日本陸軍によって敷設された泰緬(たいめん)鉄道は、 過酷な労働から多くの死者を出し、“死の鉄道” と呼ばれた。
 その名前を聞くだけで、知識として知っているだけなのに、胸がギュッと痛む。

 本作は、捕虜としてこの鉄道工事に従事させられたイギリス人兵士の自伝に基づいているという。
 ちょっと恐る恐るの鑑賞だったけれど、戦争で刻み込まれた心の傷はいかにすれば癒やされ、かつての敵を互いに赦しあえるのだろう、と考えさせられた。

 主人公エリックが、夜どれだけ時間が経っても眠れない、1時間、2時間・・・、と時の経過を詩のように語るオープニングがまず印象的だ。
 彼を脅かすのが悪夢であるのは、幸せな結婚生活の只中にいるはずの彼が突然恐怖の叫びを上げたり、玄関に立つ訪問者に襲いかかったりすることからも判る。

 しかし妻パティがいくら尋ねても、エリックは何も語ろうとしない。
 パティは夫の旧友フィンレイを訪ね、ここから、エリック、フィンレイが東南アジアで日本軍捕虜として体験した凄絶な過去が判ってくる。

 最初に私の心に突き刺さったのは、パティに語った後、フィンレイが自死することだった。

 パティが「貴方は語れるのに、夫はなぜ話してくれないんだろう」というと、フィンレイは「貴女には分からない」と答える。
 きっと、そうなのだと思う。フィンレイもエリックも、過去の記憶を凄まじい抑圧で封じてきた。 一旦その蓋を開けた後は、フィンレイはもはや生きていけなかったのかもしれない。

 しかし一方で、「余計なことをした」と妻にいうエリックに、そうだろうか、とも思う。 いつかどこかの時点で、彼は過去に向き合い、決着をつけなくてはならなかったと思うからだ。そのための踏み石に、フィンレイはなった。
 こうして2人分の過去を背負って、エリックは今もタイに在住する旧日本軍の通訳・永瀬に会うために旅立つ。

 回想場面での日本軍の拷問は思ったよりもずっと怖い。とくに開いた口に濡れタオルをかぶせ、その上から水を際限なく注ぐシーンはゾッとするほど凄惨だ。

 エリックが直接拷問した相手ではなく、通訳として立ち会っていた永瀬に憎しみを向けるのはどういうことだろう。 一緒に映画を見ていた夫は、「言葉が通じる分、憎悪を向けやすかったのかな」という。なるほど・・・。

 その永瀬が、拷問が行われたおぞましい地、タイのカンブリに留まって、戦後、ガイドを続けているのは、なぜなのか・・・、 一刻一秒でも早く、遠くに離れたいだろうに。
 そうした私の疑問は、エリックと再会してのち、永瀬が語る話で解き明かされる。


 彼は戦後、連合軍の通訳として戦死者の発掘に立会い、その数の多さに驚愕する。そして今、巡礼の思いを込めて、戦争を語り継いでいる、という。 そして、戦後の長いこの年月を自分も苦しんできた、とも・・・。
 この一連の流れは、本作の最もかなめとなる場面ではないかと思う。

 エリックは再会した直後は怒りと憎しみのあまり、「お前たちは犯罪者だ」と永瀬を糾弾する。
 しかし、戦争には勝者も敗者もない。戦争そのものが罪悪であり、犯罪なのだと思う。

 永瀬の贖罪、それを受け止め赦しに達するエリック、という構図は戦勝国という上位に立った側の見方に感じられて、掘り下げが浅いのが残念に思えるけれど、 エリックも永瀬もともに戦争に深く傷つき、苦しんできた。その点で2人は同じ地平に立つ。
 それを理解したからこそ、2人は真に和解しあえたのだと思う。

 クワイ河に架かる橋からエリックがナイフを投げ捨てるシーンは、寄せてくる彼の深く静かな思いに感動した。
  【◎△×】7

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