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レッズ


1981年  アメリカ  196分

監督
ウォーレン・ベイティ

出演
ウォーレン・ベイティ
ダイアン・キートン
ポール・ソルビノ
ジャック・ニコルソン
イェジー・コジンスキー
モーリン・スティプルトン

   Story
 ロシア革命時にモスクワに滞在し、歴史的なルポルタージュ『世界をゆるがした十日間』を書いたアメリカ人ジャーナリスト、ジョン・リードの伝記映画。
 リードと親交のあった存命の知人、友人に対するインタビューを映画に活用している。ウォーレン・ベイティが製 作・脚本・監督・主演の四役をこなし、アカデミー監督賞を受賞した。

 映画は “インターミッション” をはさんだ2部構成で、前半がリードのアメリカでの青春時代とロシア革命の成功、 後半はアメリカにおける労働運動の挫折と、再びロシアに入ったリードが革命政権に失望するまでを描いている。

 ハーバード大学卒業後、新聞記者になったジョン・リード(ウォーレン・ベイティ)は、国際労働者同盟の闘争を取材するうち、政治運動に目覚めていく。
 一方、作家志望のルイーズ・ブライアント(ダイアン・キートン)は、女性解放問題を抱え、歯科医の夫との暮らしに行き詰まりを感じていた。

 演説会で出遭ったジョンとルイーズは互いの自由を尊重するという合意のもとに同棲生活に入る。 やがて第1次世界大戦が始まり、ジョンは革命の気運が高まるロシアに旅立つ・・・。


   Review
 “アメリカと共産主義” といえば第2次世界大戦後に吹き荒れたマッカーシズムの印象が強すぎて、ロシア革命が成立した当時、 こんなに共産主義に共鳴し、熱く盛り上がった人たちがいたというのは本当に意外だった。

 主人公のジョン・リードがジャーナリストで、パートナーのルイーズは物書き (作家と名乗っているけれど、ちゃんとしたものを書き上げた気配はない)、 周囲の人たちも劇作家のユージン・オニール(ジャック・ニコルソン)に雑誌「大衆」の編集者など、当時の文化人、運動家など大方知的エリートという印象だ。

 自宅で小パーティを開き、飲み、食い、ダンスに興じ、議論を戦わす。
 そこには自己陶酔的な熱気が溢れ、時代の空気の一端を垣間見ることはできるけれど、資本家の搾取にあえぐ現場労働者の姿が見えないことで、 頭でっかちの理想主義という感じも否めない。

 ジョンが労働革命に揺れ動く激動のロシアに渡り、現場をじかに体験したいと思ったのは、ある意味、自然の流れだったのかも知れない。


 革命成立直後のペトログラードのシーンは、「インターナショナル」を歌って行進する群衆の熱気と興奮、 人々に混じって共に歩むジョンとルイーズの高揚した気分が画面からありありと伝わってくる。
 重厚な建物・市街は実際にソ連で撮影したかと思うほどリアルだけれど、映画製作当時は米ソ冷戦下だったため、イギリス、スペイン、北欧などで撮影が行われたそうだ。

 現場を体験しアメリカに戻ったジョンが直面するのは党組織内の主導権争いだ。
 日本でも野党の新党結成、分派、再結成に再分派、と離合集散が激しかった時代があったのを思い出し、どの国も変わらないな、と既視感に襲われる。

 社会党を一つにまとめるためにソ連共産党公認のお墨付きを得ようと再びロシアに渡ったジョンが直面するのが、権威化・官僚化が進む革命政権の現実だ。

 同じくロシアに来ていた女性解放運動家のエマ・ゴールドマン(モーリン・スティプルトン)は理念と現実の乖離を冷徹に直視し、共産主義との決別をジョンに告げる。
 モーリン・スティプルトンのくっきりした演技もあって、エマが本物の革命家であることが分かる。

 一方、ジョンは一度は革命政権に幻滅するものの、そうした現実を共産主義の理想に引き戻そうとする。今の目で見れば甘いというしかなく、 本来ジャーナリストである彼のこれが限界だったのかも知れない、と思ったりする。

 アメリカ社会主義運動の流れと理想に燃える青年ジャーナリストの成長と挫折にじっくり付き合ったという醍醐味はあるものの、3時間を超える尺はやはり長い。
 ジョンやルイーズを知る人たちのインタビューが頻繁に挿入されるのも、流れを阻害するように思える。

 むしろ、情熱は共有しながらも理想の方向が食い違い、激しくぶつかり合い、別れ、それでも忘れきれずにまた愛し合う、ジョンとルイーズの愛の行方が強い印象を残す。
 とくに自由恋愛を標榜し、女性としての精神的・経済的自立を求めながらも、作家として何を書くべきかが掴めず、 そのくせ自意識だけは人一倍強いルイーズの苦闘は、身につまされるものがある。

 消息不明になったジョンを探して雪原を越えてロシアに渡ったルイーズが、エマと再会し、さらにモスクワ駅で銃痕も生々しい列車から降り立ったジョンと再会する終盤は、 ラブロマンスの王道をゆく堂々の演出だ。

 病魔に侵されたジョンが、ルイーズが水を取りに病室を離れた僅かな隙きに息を引き取るラストシーン、慟哭するルイーズの後ろ姿に深い余韻を感じた。
  【◎△×】7

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