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さよなら、アドルフ


オーストラリア/ドイツ/イギリス
2012年  109分

監督
ケイト・ショートランド

出演
ザスキア・ローゼンダール
カイ・マリーナ
ウルシナ・ラルディ
ネーレ・トゥレープス
エーファ=マリア・ハーゲン

   Story
 敗戦直後のドイツを舞台に、ナチス親衛隊高官だった両親を拘束された14歳の少女が、 幼い弟妹たちを連れて祖母の住む北部ドイツへの困難な旅をする姿を描くヒューマンドラマ。
 旅の過程でナチスの行ったユダヤ人虐殺の真相を知り、葛藤しながらも、真実に向き合い成長していく姿を描く。

 1945年、敗戦して間もないドイツ。
 ナチスの幹部だった両親が去り、14歳の少女ローレ(ザスキア・ローゼンダール)は、 幼い弟妹たちとともに南ドイツから900キロ離れたハンブルクの祖母(エーファ=マリア・ハーゲン)の家へ向かう。

 敗戦で何もかも変わってしまったドイツでは、ナチの身内に対する世間の風当たりは一変し、ローレたちが受ける仕打ちは冷たかった。

 困難な旅の中で、連合軍兵士に呼び止められたローレを助けたのは、ユダヤ人青年のトーマス(カイ・マリーナ)だった・・・。


   Review
 ナチス将校を父に持つ子供が主人公、ということから『縞模様のパジャマの少年』(08) を思い出した。
 この映画の主人公ブルーノは8歳。父の仕事の内容やホロコーストの真相を知らぬまま、偶然のことから収容所に紛れ込み、ガス室の中に消えてゆく。

 一方、本作の主人公ローレは14歳。
 原作では12歳だそうだけれど、年齢を上げたことで、映画として独自の視点を獲得したのではないかと思う。

 敗戦直後のドイツ。帰宅した父が庭で大量の書類を焼却する。書斎の書棚には「断種法」に関連する本がある。 ローレの父と母がナチスの中でどんな役割を果たしていたのかをさり気なく示していて、ドキリとさせられる。

 間もなく父が連合軍に拘束され、やがて母も自ら出頭する。
 その前に、ヒトラーの死にショックを受けた母が茫然とベッドに横たわったまま授乳しようとしないシーンがある。

 信奉するナチスが崩れた時、自らの精神も崩壊する母。そんな母の胸に、お腹を空かせて泣くまだ乳児の末弟を抱かせようとするローレが痛々しくもけな気だ。

 身を寄せていた森の家にもいられなくなって、ローレは乳児を含め4人の妹弟たちを連れてドイツ北部に住む祖母のもとに向かう。
 敗戦の混乱と荒廃の中を900キロにわたる旅だ。その途次で、ローレはナチスが行ったユダヤ人虐殺の真相を知ることになる。 動揺しながらもローレがそれを受け止めることが出来たのは、14歳という年齢が大きかったと思う。

 もう1つ、ローレの年齢を上げたことで、性に目覚める年頃の微妙な感覚がストーリーに起伏をもたらしたと思う。 トーマスという青年が途中からローレたちの旅に加わるのだ。ローレははじめはユダヤ人の彼を軽蔑し嫌うけれど、保護者の役割を果たす彼を次第に頼るようになる。

 旅の途中で、うたた寝する2人の手が触れそうなほど近くに伸びるシーンはちょっとドキッとさせられる。
 川を渡る小舟を得るためにトーマスが殺人を犯すのも、ローレとの性の問題が絡んでのことなのだ。

 トーマスは旅の終わりに突然姿を消して、最後まで正体は分からないちょっと不思議な青年だ。 彼が持っていた身分証は別人のもので、「トーマス」になりすましていただけ、ユダヤ人かどうかさえ本当ははっきりしない。

 けれども、何はともあれ、ローレは彼との出会いで、刷り込まれた価値観の転換を余儀なくさせられたことになる。

 こうしてやっとの思いでたどり着いた祖母の家のシーンがとても印象的だ。 祖母はローレにねぎらいの言葉をかけるどころか、高圧的な態度で子供たちを躾けようとする。そんな彼女に私が連想したのは収容所の女看守だった。

 ナチスを盲信し、現実を受け入れようとしない祖母は、ナチスの体質そのもののように思える。
 ローレは「家族」の象徴ともいえる飾り棚に置かれた陶器の動物を粉々に打ち砕く。そんな彼女の姿から、家族、その背後のナチスの呪縛からの自立の意志が読み取れるようだ。

 『縞模様のパジャマの少年』(08) では加害者側に身を置く少年がホロコーストの犠牲になることで、ナチスの悪が鮮明に描出されたのに対して、 本作は世の中の欺瞞や不条理をまっすぐに見すえ、その中を柔軟に生き延びていく思春期の少女の成長に焦点を当てていると思った。
  【◎△×】7

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