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サンドラの週末


ベルギー/フランス/イタリア
2014年  95分

監督
ジャン=ピエール・ダルデンヌ
リュック・ダルデンヌ

出演
マリオン・コティヤール
ファブリツィオ・ロンジョーネ
カトリーヌ・サレ
クリステル・コルニル
フィリップ・ジュゼット
ティムール・マゴメジャズィエフ

   Story
 ベルギーの巨匠、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟監督が、自身の解雇撤回のために同僚たちにボーナスを諦めるよう説得して回る女性を描いた社会派ドラマ。

 体調が思わしくなく休職していたサンドラ(マリオン・コティヤール)は、職場に復帰しようとした矢先、従業員のボーナス支給のために解雇を言い渡される。

 同僚(カトリーヌ・サレ)が掛けあってくれたおかげで、週明けに従業員たちが投票を行い、ボーナスを諦める者が半分以上になればクビを回避できることになった。

 夫(ファブリツィオ・ロンジョーネ)に支えられて、その週末、サンドラは月曜日の投票に向けて同僚たちを説得するために奔走するが・・・。


   Review
 体調を崩してしばらく休職していたソーラーパネル工場労働者のサンドラが職場復帰しようとしたら、会社から解雇を言い渡される。
 こんな時、従業員を守って会社と闘ってくれるのが労働組合だけれど、彼女の働く会社は従業員わずか17人の小企業で、労働組合がない。 サンドラは黙ってクビになるしかないのだろうか・・・。

 会社の言い分は、サンドラが休職している間も工場は差し障りなく操業した。つまり16人でもやっていけることが分かった、というのだ。

 しかし「差し障りなく操業した」ということは、他の従業員がサンドラの穴をきついノルマで埋めたことを意味し、それの常態化は労働条件の悪化でもある。 本来なら同僚たちはサンドラの復帰を歓迎したいところだと思う。


 しかし会社は、サンドラのクビに同意すれば、彼女の給料分から1人1000ユーロをボーナスとして支給する、と従業員に持ちかける。 サンドラの1年分くらいの給料に相当する金額だろうか。
 会社としてはこれを1回ポンと出せば、あとは16人の雇用で済ませられる訳だ。会社も東南アジア系企業に追い上げられて苦しい状況だ。

 ここでサンドラの親しい同僚が社長に掛け合い、2日後の月曜日に16人の同僚による投票を行い、サンドラの復職に賛成する人が半数を超えるなら解雇を撤回する、 という約束を取りつける。

 これはほんとに悩ましい状況だ。誰だってお金はほしい。でも、他人の不幸を踏み台にした金は気持ちよくない。 といって、かっこよく「そんな金はいらない」と言えない差し迫った事情もある。
 会社が決断を従業員に預けてしまったことで、ともに働く仲間である彼らが否応なくむごい現実に向き合わざるを得なくなったのだ。

 映画は週末の2日間をサンドラが同僚の1人1人を訪ねて、ボーナスを諦めて自分の復職に賛成の投票をしてくれ るよう説得して回る様子を描く。

 同じことのくり返しで退屈になりそうなだけど、従業員それぞれの置かれた状況や事情が丁寧に描かれ、 訪ねていくサンドラの切迫した思いもそのつどひしひしと伝わってきて、緊張感が途切れない。

 マリオン・コティヤールが化粧けのないやつれた顔と痩せた身体で、病み上がりの今にもくず折れそうなサンドラを熱演している。
 説得が失敗するたびに心が折れ、解雇撤回に賛成を取りつけた時は不安が薄れ、その1つ1つがリアルだ。 彼女を温かく包み、励ます夫マニュを演じるファブリツィオ・ロンジョーネもいい。

 ボーナスをもらう方に賛成したことを後悔する人、サンドラの説得をきっかけに自分の生き方を見直す人、契約工員である不安から会社に同調してしまったと打ち明ける人、 ・・・同僚工員たちのさまざまなあり方、それぞれの心情にも共感を覚える。

 投票結果は賛成・反対が半々、つまり過半数を取れなかったサンドラは解雇ということになる。

 救済方法として社長は、他の工員の契約打ち切りと引き換えにサンドラの復帰を認める、という提案をするけれど、サンドラはこれをきっぱりと拒否する。
 他人を犠牲にしての安定は要らない、・・・その潔い決断はこの2日間の説得行脚の中でサンドラが得たもの (精神的な強さや仲間との絆) の価値を示している。 地味だけれど爽やかな後味の映画だ。
  【◎△×】7

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