Story 韓国・華城で1986年から91年にかけて10人の女性が殺害された未解決の連続殺人事件をモチーフとしたサスペン ス映画。 女性ばかりを狙った連続殺人が発生する。 捜査を担当するチェ・ヒョング刑事(チョン・ジェヨン)は、あと一歩のところまで犯人を追い詰めるが、捕り逃してしまう。 それから15年が経過し、2005年、事件は時効が成立する。 それからさらに2年が過ぎた2007年、イ・ドゥソクと名乗る男(パク・シフ)が現われ、自分が事件の犯人だと告白する。 その後、事件を詳細に記した手記を出版。彼の美しい容姿は人々の注目を集め、イ・ドゥソクは一躍時の人となる。 しかしチェ・ヒョング刑事は最後の失踪事件の真相が書かれていないことに不審を抱く。 そして同じ頃、家族を殺された遺族たちは自らの手でドゥソクを裁こうと策を練っていた・・・。 Review 本作は『殺人の追憶』(03) のモデルとなった、1986年から91年にかけて韓国で起き迷宮入りとなった連続殺人事件を素材とし、いわばその後日談という体裁を取っている。 こうして何度も取り上げられるのは、この事件が韓国の人たちにとってそれほどまでに衝撃的な、そしてトラウマを遺した事件だったのだな、とあらためて思う。 2005年、事件は15年の時効を迎え、さらに2年が過ぎた2007年、真犯人と自ら名乗る男が現れる、というストーリー設定がまず面白い。 彼は事件の真相を書いた手記を発表し、記者会見まで開く。時効という法律が彼を守り、過去に10人もの女性を殺した男がのうのうと人前に姿を現わしても、 誰もどうにも出来ない。本来、社会の秩序を守り、生活の平穏を保証するはずの法律が内包する矛盾を、これほどうまく衝いた設定もない。 主役2人が対照的なキャラ立てになっているのもいい。 真犯人と名乗るイ・ドゥソクは非常な美青年で立ち居振る舞いにはオーラがある一方で、内面を窺わせない能面のような表情はちょっと不気味でもある。 記者会見ではどんな質問にも淀みなく答え、「自分が犯したようなおぞましい事件を二度と起こさないために手記を書いた」と、盗人猛々しいことをスラリと言う。 世間がわっと沸き立ち、手記がたちまちベストセラーになるのも当然と思えるほど、その出現は衝撃的だ。 もう一人の主人公、当時事件を担当した刑事チェ・ヒョングは目がギョロリと鋭く、母親があきれて嘆くほど気が短い。 演じるチョン・ジェヨンは『黒く濁る村』(10) でも、閉ざされた山村を牛耳る元刑事 (今は村長) に扮していた。 この映画では動かない目が不気味で凄みがあったけれど、本作ではその目が短気さを表わし、人間的な愛嬌を漂わせて、彼の人物像をユーモラスに感じさせる。 主人公たちの人物造形が魅力的で、2人の敵対関係にも説得力があり、ストーリーに引き込まれるけれど、それに水を差すのがアクションとカー・チェイスだ。 派手で過剰でしつこくて、アクの強い韓国映画らしいといえばいえるけど、延々これをやられると正直ちょっと飽きが来る。 まさに “過ぎたるは及ばざるが如し”、ストーリーの緊迫感がなくなるのは大きなマイナス点だと思う。 本作のクライマックスの1つは、事件をめぐるTV討論会の場面だろう。 その生放送中に「自分こそが真犯人」と名乗る「J」という男(チョン・ヘギュン)から電話がかかり、次の討論会では本人そのものがスタジオに姿を現わす。 もしも「J」が真犯人なら、最初に名乗り出たイ・ドゥソクは何者か、彼は何のために名乗り出たのか、事件の真相は一体どこに・・・、 こうして話は思いがけない方向に進んでいく。 そして最後に明かされるイ・ドゥソクと刑事チェ・ヒョングの意外な関係、失踪事件の真相・・・。 これらのどんでん返しには本当に意表を突かれた。 ただ惜しむらくは、被害者の遺族たちの復讐劇は (書き出すと長くなるので省略するけれど) あまりに中途半端だ。 もっと緊密な構成、リアルな描写が必要だったんじゃないかと思う。 アクションも含めてあちこちにほころびが目立つけれど、『殺人の追憶』の流れをくむ重厚な本格社会派ミステリーはなかなか見応えがあった。 【◎○△×】7 |