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三国志


2008年  中国  102分

監督
ダニエル・リー

出演
アンディ・ラウ
サモ・ハン、マギー・Q
プー・ツンシン
ユエ・ホア

   Story
 「三国志演義」に登場する蜀の武将、趙雲にスポットライトを当てた歴史スペクタクル。 彼の最後の戦いとなる「鳳鳴山の戦い」をクライマックスにして、波乱に満ちた生涯を描いている。

 魏・呉・蜀が天下を三分し、覇権を争った3世紀の中国。

 貧しい家に生まれた趙子龍 (後の趙雲)(アンディ・ラウ)は、戦乱が収まり庶民に平和な暮らしが来ることを夢見て、 人望ある蜀の君主、劉備(ユエ・ホア)のもとに赴く。

 そこで同郷の羅平安(サモ・ハン)と出会い兄貴と慕うようになる。

 趙雲は曹操軍にさらわれた劉備の幼い息子を救出したことから、一躍勇将と認められるようになる。
 その後も目覚ましい功績をあげ、関羽・張飛らとともに蜀の五虎大将軍の一人となってゆくが・・・。


   Review
 「三国志」ファンの夫は当然のように趙雲を知っていたけれど、劉備と劉邦がごっちゃになってしまうような私はこれまた当然のように知らない。 三国志に登場する有名人といえば、劉備、曹操、孫権、そして関羽、張飛、かの諸葛孔明・・・、趙雲はどうやらその次くらいに位置する人物らしい。

 そういう人物を「三国志」の主人公に据えるというのは意外だったけれど、連戦連勝の常勝将軍で、 ほかの将軍たちや蜀の君主・劉備が亡くなった後も最後まで生き残ったのが彼なのだそう。
 うん、ちょっと面白いかもしれない。

 もっとも本作の中で彼と深くかかわる羅平安と曹嬰はオリジナル・キャラクターらしいので、史実に忠実なストーリーというわけではないようだ。 その趙雲を香港のトップ・スター、アンディ・ラウが演じている。


 趙雲 (当初は趙子龍) と羅平安とが出会う場面が印象深い。平安は10年近く劉備軍にいて、新人兵士の採用面接を担当している。そこに子龍がやってくる。
 偶然にも2人は同郷の常山出身で、子龍がここと常山との地理関係もよく分からない無教養者と分かると、平安は大事にしていた地図をポンとくれてやる、 自分はさんざん眺めて頭に入っているから、といって。

 平安の故郷への思い、軍の孤独な暮らしや思いがけず出会った同郷の後輩への心配りなど彼の内面がさまざまに窺われ、 その後の趙雲と平安の関わりに味わいが深まった気がする。

 その後、趙雲は「長坂の戦い」でまだ乳飲み子の劉備の子供を曹操率いる魏軍から奪還したのをきっかけに名を挙げていくわけだけれど、 膨大なエキストラを使った大会戦や大行軍、豪華なセット・衣装、切れのいいアクションなど、見どころがいっぱいだ。
 とくに趙雲が劉備の子供を背負ったまま馬を駆って崖から崖に飛び移るシーンなんて、 うっそぉ~、といいながらアンディ・ラウの精悍な笑顔に惚れ惚れしてしまう。

 こうしていわゆる「三国志」的ストーリーが展開していくのかと思いきや、時間は一気に20年後に跳び、趙雲最後の戦い「鳳鳴山の戦い」になるのが思いがけなかった。


 ここで曹操の後を継いで趙雲に挑むのが曹操の孫娘・曹嬰(マギー・Q)だ。愁いを帯びた美女、冷徹な知略をめぐらす策士の一方、人情の機微にも通じている。 趙雲との一騎打ちでも滅法強い。
 こんな女性将軍が輿車(よしゃ)の中でボロンボロンと琵琶をかき鳴らしながら命令を下すのだから、兵士たちが命懸けで戦うのも無理はない。

 この戦いに臨む老いた趙雲の自分の最期を見極めた目がいい。 趙雲のように故郷に名を残すことのできなかった平安がそのコンプレックスから蜀を裏切ったことを知っても、彼への敬愛の念を失わず、出陣を前に語りかける。
 「自分で運命を切り開けると思ったが、運は天が決めていた。自分の人生はただ大きな輪を描いただけ。でもそれは美しい輪だった」と。
 懸命に生きた人だけが抱ける感慨・・・、そこに漂う無常観に何とも言えず惹かれる。

 平安の叩く陣太鼓の音に乗るように、趙雲が敵陣に向かって馬を駆る。その姿にかぶせて、「子龍を見たのはそれが最後だった」という平安のナレーションが流れる。
 子龍と平安の出会いで始まり別れで終わる「三国志」スピンオフ作品は、人生の哀歓をしみじみと感じさせた。
  【◎△×】6

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