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三人の名付親


1948年  アメリカ  107分

監督
ジョン・フォード

出演
ジョン・ウェイン
ウォード・ボンド
ペドロ・アルメンダリス
ハリー・ケリーJr.
メエ・マーシュ
ミルドレッド・ナトウィック

   Story
 ピーター・B・カインによる原作の5回目の映画化で、西部劇の巨匠ジョン・フォード監督の異色作。

 アリゾナで銀行強盗を働いたボブ(ジョン・ウェイン)とピート(ペドロ・アルメンダリス)、キッド(ハリー・ ケリーJr.)の3人は、保安官スウィート(ウォード・ボンド)に追われて砂漠に逃げ込んだ。

 水を求めてさまよううちに、3人は幌馬車の中に出産間近の女性(ミルドレッド・ナトウィック)を見つける。

 何とか出産させるものの、女性は3人に名付親になるよう頼んで、亡くなってしまう。

 生まれたばかりの赤子を託された3人は、保安官一行の追跡を受けながら、赤子を町まで届けようと奮闘するが、広大な塩野や岩だらけの岡が彼らの行く手を阻む・・・。


   Review
 前半は、広大な砂漠を3人の無法者がひたすら水を求めてさすらう。後半は、瀕死の妊婦が産み落とした赤ちゃんを町まで届けようと、3人がまたまたひたすら頑張る。
 タッチは異なるけれど、そこに流れるのは傷ついた仲間を思いやり、いたいけな赤子をいとおしむ無骨な男たちの優しさだ。 ジョン・フォードがこういう人情劇のような西部劇を作っていたとはちょっと意外だった。

 前後半をつなぐのが3人を追跡する保安官だ。彼らが出会う冒頭のシーンが面白い。

 ボブ、ピート、キッドの3人が砂漠のど真ん中の町に来て、ある家の庭先の表札に目を止める。
 「B. Sweet」、銀行強盗をもくろむ3人は「“Be sweet” (=優しくして) か」と大笑い。

 庭仕事中のこの家(や)の主人がひょいと顔を上げ、名前はバック・スウィートだけど、どういう訳か妻はパーリーと呼ぶ、と言う。 映画のタイトルが “名付親” だけに、名前に絡んだジョークが楽しい。


 そこに当の奥さん(メエ・マーシュ)が現われ、3人にコーヒーを振る舞いながら、クリスマスを過ごすためにやって来るはずの姪夫婦がまだ到着しない、と語る。
 こうしてさり気なく後半3人が出産に立ち会うことになる幌馬車の女性の伏線が張られる。フォード監督の演出は意外にきめ細やかだ。

 和気あいあいの中で主人がチョッキを着ると胸には保安官バッジ、それを見たボブの表情がスッと変わる。ピートとキッドの顔もこわばる。 それに目ざとく気づくパーリー。微妙な空気の変化が上手い。
 別れ際、3人にかける「また後で会おう」のパーリーのセリフが効いている。こうして町の銀行を襲撃した3人はしぶとく追跡されることになる。

 パーリーがボブの水袋を打ち抜くシーンがある。ボブを狙ったと思った部下は「失敗しましたね」というけれど、これこそが彼の狙いだ。 このあと3人は炎熱地獄の砂漠を水を求めてさまようことになる。パーリーの保安官としての凄みを感じさせる。

 やっとたどり着いた貯水槽は汽車で先回りした保安官一行が待ち構え、次の水飲み場も砂漠の知識のない先着者が焦ってダイナマイトを仕掛けたために破壊されて、 水が出なくなっている。

 西部劇らしい銃撃戦は序盤の銀行襲撃のシーンだけ、あとはひたすら水・水・水・・・。水筒を回し飲みしながら灼熱の砂漠をさまよう3人に、こちらの喉までヒリヒリする。


 後半は、水飲み場に置き去りにされた幌馬車の中で妊婦が出産し、それに立ち会った3人が名付け親になる。

 妊婦が用意していた赤ちゃん用の品々を引っ張り出して、目を細める無骨な男たち。
 何をどういう順序で世話していいのか分からない。 そこでバスケットの中にあった育児書を読み読み、コンデンスミルクを溶き、水筒の水が足りなくなるとサボテンを絞り、涙ぐましい努力の連続だ。

 可笑しかったのは、入浴をどうさせるか、で水がないならグリースを塗って代用できる (と育児書に書いてある) と、幌馬車の車輪のグリースを使う場面。
 ジョン・ウェインのでっかい手が小さな赤ちゃんの背中に黄色い油を塗りたくる。不器用な手つきに優しさがこもり、グフッと笑いそうになる。

 悲壮な前半と対照的に、後半はほのぼのトーン。 それでも冒頭の銃撃戦で負傷したキッドがついに死に、ピートも岩場で骨折して拳銃で自死、とだんだん悲劇の色合いが強くなる。

 とはいえラストは一応のハッピーエンド。ストーリーはシンプルだけれど、味わいがあり楽しかった。
 舞い上がる風に砂紋を描く砂漠の光景が驚くほど抒情的で美しい。
  【◎△×】7

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