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ゼロ・ダーク・サーティ


2012年  アメリカ  158分

監督
キャスリン・ビグロー

出演
ジェシカ・チャスティン
ジェイソン・クラーク
ジェニファー・イーリー
カイル・チャンドラー
マーク・ストロング
レダ・カティブ

   Story
 9.11 全米同時多発テロの首謀者であるウサマ・ビンラディンの殺害計画を描いたサスペンス。
 『ハート・ロッカー』でアカデミー作品賞&監督賞に輝いたキャスリン・ビグローが、CIAの女性分析官を主人公 に同作戦の全貌を描いている。

 国際テロ組織アルカイダによるアメリカ同時多発テロから2年後の2003年。
 巨額の予算をつぎ込みビンラディンの行方を追うものの、CIA追跡チームは成果を上げられずにいた。

 手づまり感の漂う中、有能な女性分析官マヤ(ジェシカ・チャステイン)がCIAパキスタン支局に派遣される。
 しかし捜査は依然困難を極め、その間もアルカイダによるテロで各地で多くの命が失われていた。

 そんなある日、アルカイダ情報提供者と接触した同僚女性分析官が自爆テロの犠牲となる。 この事件を境にマヤのビンラディン追跡の執念は激しさを増していく・・・。


   Review
 2001年に発生した 9.11 同時多発テロから、首謀者とされる国際テロ組織アルカイダのリーダー、ウサマ・ビンラディンが2011年に殺害されるまでを、 CIA女性分析官マヤの動きを中心に追っている。
 “サウジ・グループの尋問” “アブ・アフメド” などのタイトルで章立てにすることで、複雑な流れにメリハリをつけ、理解を助けている。

 アルカイダの資金運び屋アンマル(レダ・カティブ)がパキスタンのCIA拠点で拷問されるシーンから映画は始まる。 シーンそのものはそれほど凄惨ではないけれど、実際はもっと凄まじいに違いない。そう思うだけに、着任したてのマヤが目を背けるのに共感、彼女に感情移入してしまう。

 この時すぐではないけれどアンマルが漏らした何人かのメンバーの中で、アブ・アフメドの名にマヤが反応したのは、 彼女の情報力と分析能力に裏打ちされた直感のすごさを示している。

 彼はビンラディンの指示をメンバーに伝える連絡係だけれど、だれも直接会ったことがなく (指定された場所に行くとメッセージが置いてある)、居場所も分からない。 まるで透明人間だ。
 CIAパキスタン支局の上司が「ほんとに存在しているかどうか怪しいものだ」というほどだ。

 成果が上がらない中で時だけは流れ、その間に世界各地でテロが相次ぐ。
 先輩分析官のダニエル(ジェイソン・クラーク)は (拷問に明け暮れる日々に多分嫌気がさして) CIA本部に移動し、 支局長ブラッドリー(カイル・チャンドラー)もアルカイダから殺害予告をされたために、解任されて現場を離れる。

 そんな中でマヤは踏みとどまり、かつて忌避した拷問を捕虜の尋問に用いるほどタフな変貌ぶりを見せる。
 演じるジェシカ・チャスティンの胸に食い込むような張りつめた表情。本作を支える熱演だ。

 同僚女性分析官ジェシカ(ジェニファー・イーリー)が自爆テロに巻き込まれて死亡したことで、 マヤのアブ・アフメド追求の執念は、上司が「正気じゃない」と呆れるほどに凄まじくなる。

 彼はすでに死んでいる、という情報がもたらされても信じない。
 彼が生きていること、本名はイブラヒム・サイードであること、さらに車で携帯をかけている本人を特定、そしてアボッターバードの住まいを突き止めるくだりは、 過去のデータの洗い直し、尋問画像の分析、通信傍受や衛星画像を駆使し、とてもスリリングだ。

 そして周辺の家々の8倍もある要塞のようなこの豪邸こそがビンラディンの潜伏先であると絞り込む。


 2011年5月1日深夜0時30分、邸の厳重な警戒を突破してアメリカ海軍特殊部隊が踏み込み、ビンラディン (と思しき男) を射殺するまでは、 描写がリアルで、自分も現場に立ち会っているような気持ちになる。

 子供たちが怯えて逃げ惑う。深夜突然武器を構えた屈強な男たちに踏み込まれて、どれほどの恐怖だったか。しかも、目の前で両親が殺されたり捕らえられたりするのだ。
 恨みと復讐のサイクルが再生産されるのではないか・・・、と懸念が湧いてくる。

 ビンラディンの遺体を確認した時、マヤは安堵感からか虚脱した表情を浮かべるけれど、帰国の専用機に乗った時、彼女の目から一筋涙が流れ落ちる。 ゴクリを何かを飲み込み、湧き上がる痛みをこらえるような表情。

 「どこへゆく」とパイロットに聞かれても答えられない。まるで心の行き所を失ったかのようだ。
 作戦が成功したというのに、達成感のない、何という虚しさ。マヤの表情は、報復は新たな報復を生むだけ、という世界が陥った苦い現実を暗示するように思えた。
  【◎△×】7

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