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深夜の告白


1944年  アメリカ  106分

監督
ビリー・ワイルダー

出演
フレッド・マクマレイ
バーバラ・スタンウィック
エドワード・G・ロビンソン
ジーン・ヘザー

   Story
 「郵便配達は二度ベルを鳴らす」で知られるジェームズ・M・ケインの原作を、ビリー・ワイルダー監督がハードボイルド作家レイモンド・チャンドラーと共同脚色し、 回想形式で描いている。

 深夜のオフィスで、瀕死の男ウォルター(フレッド・マクマレイ)がディクタフォン (事務用録音機) のマイクを 手に告白し始めるーー。

 腕利きの保険勧誘員ウォルターは顧客のディートリクスン氏の後妻フィリス(バーバラ・スタンウィック)に出逢い、心を奪われる。

 彼女と共謀しディートリクスン氏に倍額保険をかけて事故を装って殺害するが、保険会社の敏腕調査員キーズ(エドワード・G・ロビンソン)は他殺の匂いを嗅ぎつける。

 発覚を恐れたウォルターとフィリスは相互不信に陥り、さらにフィリスの過去に恐るべき疑惑が生まれて別れを決意するウォルターだが・・・。


   Review
 冒頭、タイトルバックに肩幅の広い男が両松葉づえでゆっくり歩く後ろ姿が映る。 本編に入ると、深夜、猛スピードで走る車がビルの前に停まり、降りた男がよろめきながらビルの中に入っていく。松葉づえをついていない。あれ? と思う。
 本作を見終わって、「後ろ姿」に「松葉づえ」、これがキーワードであることに気づき唸ってしまった。

 フレッド・マクマレイというと50代半ばの中年過ぎの印象が強かったので、こんな若い時もあったんだ、とヘンに新鮮だ。けっこうハンサムね。 美貌の人妻フィリスがバスタオルを身体に巻き付けて吹き抜けに現れた時のウォルターの顔! 一遍で心を奪われたのが分かる。

 彼女の魅力をアンクレット (足飾り) と香水で表現するウォルター。香水はともかく、足首のセックスアピールに気づくなんてさすが大人の男です。
 ディートリクスン氏の自動車保険の更新で訪れたはずのウォルターにフィリスが傷害保険を持ち出しただけで、彼女の下心 (保険殺人) に気づくあたりにも、 彼の大人のしたたかさを感じさせる。

 とはいえ、したたかさで上を行くのはフィリスのほうかも。 感情をあまり露わにしないブロンド美女。ときに子猫、ときに女豹のよう。でも、これらすべてが計算づくの演技にも思える。

 話が飛ぶけれど、中盤ちょこっと登場したニーノ (ディートリクソン氏の娘ローラの恋人) が終盤再登場し、フィリスとの関係がほのめかされる。
 ほんとはニーノが本命でウォルターは利用されただけなの? いやいや、彼女は人なんて愛したことはない、 2人とも操られただけなのかも・・・、と映画が終わっても謎は残る。まさに悪女の真骨頂だ。

 主役2人を食うほどの存在感を示すのがエドワード・G・ロビンソンだ。 悪人も善人もピタリと演じる切る人だけれど、本作でも存分にその持ち味を発揮し、仕事一途の実直な保険会社調査員を演じている。

 キーズは保険金の不正請求に対して天才的ともいえる勘が働く。それを「胸につかえが」と表現し、“相棒” と呼ぶのが面白い。 ウォルターとフィリスが完璧に実行したはずの殺人計画も、「何かヘンだ」とこの “相棒” が察知するのだ。

 そのきっかけは「ディートリクソン氏は怪我をしたのに傷害保険を請求しなかった」ことだ。
 キーズは「傷害保険をかけていたのを知らなかったんじゃないか」という。「ほんとだ! 気づかなかった」と思ったのは私だけではないだろう。 ウォルターもギョッとしたんじゃないだろうか。


 本作でもっともスリリングなのは事件に目撃者がいたことだ。
 列車最後部の展望車で、ディートリクソン氏に扮したウォルターに声をかけてきた男がいる。ウォルターは誰もいないと思って松葉杖を外しかけた時だけに、ドキッとする。

 後に彼は、キーズにディートリクソン氏の写真を見せられて、「この男ではない」「見たのは背中 (=後ろ姿) だけど、声は若かった」という。 そしてふと同席していたウォルターを見て、「どこかで会ったかな?」という。
 またまたドキッ。落ち着きなく動くウォルターが彼に背中を見せるたびにハラハラする。

 ウォルターとフィリスの間に亀裂が入り、映画は悲劇的な結末を迎えるけれど、余韻として残るのはキーズのウォルターに対する友情だ。
 ウォルターの罪は裁かれなければならない。それでも、警察に通報の電話を掛けながら、ウォルターに最後のタバコの火を付けてやるキーズ。 道を誤った後輩への思いがにじみ出る。爪の先ではじいてマッチを点火するしぐさがバカに粋だ。
  【◎△×】7

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