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スティーブ・ジョブズ


2015年  アメリカ  122分

監督
ダニー・ボイル

出演
マイケル・ファスベンダー
ケイト・ウィンスレット
セス・ローゲン
ジェフ・ダニエルズ
マイケル・スタールバーグ
キャサリン・ウォーターストン

    Story
 PCの名機 Macintosh や iPhone など数々の革新的商品を生み出したデジタルテクノロジーの天才、スティーブ・ジョブズ。
 彼の人生において大きな転換点となる3つの新作発表会に焦点を絞り、イベント直前の舞台裏を描くという斬新な 手法で、彼の知られざる素顔に迫る。

 1984年、Macintosh 発表会の40分前。「ハロー」と挨拶するはずのマシンが黙ったままだ。

 ジョブズ(マイケル・ファスベンダー)は「直せ」と部下のアンディ(マイケル・スタールバーグ)に強要し、 マーケティング担当のジョアンナ(ケイト・ウィンスレット)が代案を提案しても譲らない。

 控室には元恋人のクリスアン(キャサリン・ウォーターストン)が、ジョブズがかたくなに認知を拒否する娘のリサを連れてきており、生活費を要求する。


   Review
 今から17、8年前、我が家に最初のPCとしてやってきたのが iMac、カラフルで半透明のボディがオシャレだった。
 その Macintosh を開発したスティーブ・ジョブズってどんな人かと思ったら、人の意見には耳を貸さず、傲慢で完璧主義で、まったく「手に負えない人」なのだ。

 PCって今や、人 (や社会、世界) とつながるための欠かせないツールだけれど、それを開発した当の本人が、自己完結した唯我独尊的世界で生きている。
 『ソーシャル・ネットワーク』の主人公、「フェイスブック」の創設者マーク・ザッカーバーグも人とつながるのが下手だった。 現代のハイテクおたくのシンボルともいえる2人の共通点がひどく皮肉だし、面白い。

 映画は、ジョブズにとって人生のターニング・ポイントとなった3つの新製品の発表会に絞って、その40分前からを描く3部構成だ。 その第一部ともいえるのが、1984年の Macintosh 発表会40分前の楽屋裏だ。


 「ハロー」と音声で挨拶するはずの Macintosh がウンともスンともいわない。その騒動をめぐっての彼の無理押しゴリ押しぶりが凄い。
 見ていて思うのは、ジョブズって細かいところに異常なほどこだわる人だな・・・。それもかなり粘着質っぽい。

 こだわりは多岐にわたるけれど、中でも印象的なのが Macintosh のクローズド・システムに関するそれだ。
 改造やカスタマイズが出来ない、つまり他の機器やソフトとの互換性は不可、ということにひどく執着する。 結局はそれが致命的な欠陥になって Macintosh は販売不振になり、彼がアップルを追われる原因になるのだけど。

 思うに、ジョブズにとってマシンは自身の投影、分身だったんでしょうね。
 仮に自分の中に他者が入り込んで性格のあれこれを指摘し変えさせられたら、それはもはや自分ではない。だれだって自分が自分でなくなるのは望まない。

 マシンはまさに彼の自己完結した世界。そう思えば、高すぎる値段に頓着しなかったのも納得がいく。
 そんなジョブズが娘リサとの関係では、少しずつ変化を見せるのが興味深かった。

 第一部ではリサを自分の子と認めようとせず、頑なに認知を拒否する。 しかし、リサが何気なく Mac を使って絵を描いたのに気づいた時、彼は初めてリサを「自分の娘だ」と思ったんじゃないかな・・・。

 1988年の NeXT の発表会では、学校を休んで遊びに来たリサに、「学校に行かなきゃダメだ」と父親らしいところを見せる。
 リサが腰に抱きついて「一緒に住みたい」といった時の、ちょっと戸惑った様子。
 そして1998年の iMac 発表会では、こだわりの時間厳守を破ってでもリサとの和解を図ろうとする。

 彼女が大学で書いているエッセイを読みたいといったり、ポケットに1000曲入れてやるといったり(iPod の発想が閃いてたのかな)・・・。 不器用な愛情表現にクスリ、ついでにほろっとしたりして・・・。

 ジョブズを巡る人間模様も、高校時代からの友人で一緒にアップルを創業したウォズニアック(セス・ローゲン)や、 ジョブズが最高経営責任者としてペプシコーラから引き抜いたカスリー(ジェフ・ダニエルズ)などそれぞれとても面白いけれど、 なかでもマーケティング担当のジョアンナが私には興味深かった。

 ジョブズがアップルを解雇された時も彼と行動をともにした、いわば戦友ともいえるのがジョアンナだ。 ジョブズに言い負かされず対等に立ち向かえる彼女の見識や分別に、ジョブズは一目置いていたんじゃないかと思う。

 スタッフとの調整役を果たしたり、リサとの和解を涙ながらに訴えたり、ジョブズが一般社会とつながりを保ち続けられたのは彼女の力が大きかった。 ある意味で人生のパートナーといえる存在だったのではないか、と思う。
  【◎△×】7

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