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大統領の執事の涙


2013年  アメリカ  132分

監督
リー・ダニエルズ

出演
フォレスト・ウィテカー
オプラ・ウィンフリー
イライジャ・ケリー
デヴィッド・オイェロウォ

   Story
 実在したホワイトハウスの黒人執事の人生をモデルに、ホワイトハウスで歴代大統領7人に仕えた黒人執事と家族のドラマが綴られる。 同時に、公民権運動やベトナム戦争など激動するアメリカ近代史の波乱に満ちた軌跡を追う。

 綿花畑で働く奴隷の息子に生まれた黒人、セシル・ゲインズ(フォレスト・ウィテカー)は、 白人に父親を殺された後、ハウス・ニガー (黒人給仕) として白人に仕える作法を叩き込まれる。

 町に出て高級ホテルのボーイとなったセシルは、働きぶりが認められて、ついにホワイトハウスの執事へと抜擢される。

 アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソン、ニクソンなど歴代大統領に仕えながら、 キューバ危機、ケネディ暗殺、ベトナム戦争など、現代アメリカの歴史を図らずも政治の中枢から目撃することになるセシル。

 その一方で、白人に従順に仕える父親を恥じる長男ルイス(デヴィッド・オイェロウォ)との間に確執は深まり、ルイスは過激な反政府運動に身を投じていく・・・。


   Review
 主人公セシルは、約30年間ホワイトハウスで7人の歴代大統領に仕えた実在の黒人執事をモデルとしているそうだ。 主人公の人生を軸にアメリカ現代史をたどる構成は『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94) を彷彿させる。

 私が子供時代、最初に覚えたアメリカ大統領はアイクの名で親しまれたアイゼンハウアー、 20歳の時に日米間の最初の衛星中継で報じられたのはダラスで起こったジョン・F・ケネディの暗殺、・・・とその時々のアメリカ大統領にまつわる記憶がよみがえる。
 しかし、黒人に対する人種差別についてはリアルタイムではほとんど知らなかった。

 さすがにマーティン・ルーサー・キング牧師の名は知っていたけれど、 映画の中で台詞で触れられる「ミシシッピーで公民権運動の若者が3人殺された」は『ミシシッピー・バーニング』(88) で、マルコムXやブラック・パンサ ーは『マルコムX』(93) で、と映画で知ったことばかりだ。

 本作ではレストランやバス、トイレなどが白人専用、黒人専用と公然と人種分離が行われることに対する抗議行動が具体的に描写される。

 シットイン、フリーダム・ライダーズという言葉を私は本作ではじめて知った。
 運動に参加する若者たちに投げつけられる挑発的、侮蔑的な言葉の数々、深夜バスを停めて取り囲むKKKの不気味な覆面姿と松明(たいまつ)の明り、 ・・・50年代から60年代にかけての公民権運動の流れが端的に語られ、日本人の私にも理解しやすい。

 そんな中で興味深かったのは、主人公セシルと長男ルイスの対立・確執だった。
 南部の綿花農場で奴隷の子として生まれ、農場主に理不尽に父親を殺されたセシルにとって、白人の僕(しもべ)として生きることは、 家族を守り、「生き延びる」ための知恵だ。

 しかし、新しい時代の波の中で生きるルイスにとって、それは卑屈なものに映る。何度も投獄され、時に家族を危険にさらしながら、運動の中で成長していくルイス。
 初の黒人アカデミー賞俳優シドニー・ポワチエを「白人お気に入りのアンクル・トムだ」という彼の言葉は、旧世代のセシルには辛辣に響いたに違いないと思う。

 息子を理解することを拒否したまま歳を重ねたセシルが、己の考えの誤りに気づくシーンが印象的だ。


 仲間のために白人スタッフより低く置かれたままの給料の値上げを交渉し、待遇改善を勝ち取ったセシルだけれど、 長年の功績を認められて、レーガン大統領から晩餐会に招かれた時、ゲストの一人として仲間の黒人執事のサービスを受ける自分に違和感を覚える。

 ゲスト席にいる自分はお飾りにすぎないこと、そして白人向けの顔で給仕する仲間の黒人執事に、セシルは自分もそうであったことに気づくのだ。 自分をもまた “アンクル・トム” の1人だったと知ったのだと思う。

 引退し故郷に帰ったセシルは、自分の誤りを認め、長男ルイスとともにデモに参加するまでになる。 セシルの現実主義とルイスの理想主義、2つが歩み寄るラストが爽やかだ。
  【◎△×】7

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