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第十七捕虜収容所


1953年  アメリカ  119分

監督
ビリー・ワイルダー

出演
ウィリアム・ホールデン
ドン・テイラー
オットー・プレミンジャー
ロバート・ストラウス
ピーター・グレイヴス
ハーヴェイ・レンベック

   Story
 第2次世界大戦末期のヨーロッパ戦線、ドイツ軍の捕虜収容所を舞台に、名匠ビリー・ワイルダーがコメディ・タッチで描いた米軍兵士たちの脱走劇。
 セフトン軍曹に扮したウィリアム・ホールデンがアカデミー主演男優賞を受賞。またオットー・プレミンジャー監督が捕虜収容所所長に扮して出演している。

 1944年のスイス国境に近いドイツの第十七捕虜収容所。ここには米空軍の軍曹ばかりが集められている。

 ある夜、2人の捕虜が仲間の協力で脱走するが、間もなく銃声が聞こえ、2人が射殺されたことが分かる。

 以前から囁かれていたスパイ説が信憑性をおび、抜け目なく立ち回る要領のいいセフトン(ウィリアム・ホールデン)に容疑がかかる。 仲間から孤立しつつも、セフトンはスパイの正体を突き止める機会を待つ・・・。


   Review
 何とも自由な捕虜収容所でびっくり。なまじ脱走なんか考えず、ここでのんびり暮らしたほうがラクなんじゃない? ・・・なんて思ってしまうほどだ。 公開当時けっこう話題になった記憶があり、シリアスな内容と思っていただけに、こんなコメディ調の映画とは思わなかった。

 コメディ・リリーフを務めるのはアニマル(ロバート・ストラウス)とハリー(ハーヴェイ・レンベック)の凸凹コンビだ。
 ロシアの女囚たちの入浴小屋を覗きたいばっかりに、ペンキ塗りのフリをしながら小屋に近づいていく時のバカバカしさや、 クリスマス・パーティで女装したハリーを憧れの女優ベティ・グレイブルと見間違えてしまうアニマルの酔眼ぶりに、 捕虜収容所ものにしては軽すぎると思いつつも、吹き出してしまう。


 しかしそんな中でも、ジワリジワリとサスペンスが滲み出る。
 まず冒頭、2人の捕虜が仲間のサポートで脱走を試みるものの、待ち受けていたドイツ兵にあっさり射殺されてしまう。 どうやら兵舎内にスパイがいてドイツ側に情報を洩らしているらしい。

 映画序盤のこのシーンで、一見、いかにものんびりした捕虜生活が不穏な空気を孕んでいるのが分かる。
 登場人物たちの顔と名前、そして個性に見分けが付くようになると、一体この中の誰がスパイで、どういう方法でドイツ側と連絡を取っているんだろう、と気になりだす。

 みんなに一番疑惑の目を向けられるのがセフトンだ。 口八丁手八丁で如才なく、ドイツ軍とも (賄賂という手を使って) 上手に付き合い、収容所の中でも捕虜仲間相手に商売するような男。

 ということになっているけど、演じるウィリアム・ホールデンが全然 “らしく” ない。本作で主演男優賞のオスカーを獲得したというのがなんか不思議・・・。 それに地味で目立たないし・・・。
 でもそれがかえって良かったのかな。その目立たなさで、本物のスパイと連絡方法を突き止めるのだから。

 仲間たちの疑惑が頂点に達し、みんなからボコボコにされた時の彼のセリフがかっこいい。
 「俺が無実ということを知っている人間が2人いる。」
 だれだ? とみんな思う。
 「俺と本物のスパイだ。」
 まさに! 本物のスパイもこれにはギクッとしたんじゃないかな。

 さて、スパイは分かるのだけれど、そこからが問題だ。
 バレたと知ったら、スパイは他の兵舎に移動して逃げてしまうだろうし、みんなが怒りのあまり彼を殺しでもしたら、報復として兵舎の捕虜全員が殺されてしまう。 うかつに洩らす訳にはいかない。

 そんな時、列車爆破容疑で拘束されたダンバー中尉(ドン・テイラー)救出という絶好のチャンスがやってくる。

 赤十字が支給先を間違って運んできた大量のピンポン玉を使って白煙弾を作り、その煙幕の中で中尉を思いがけない場所に匿う。 そしてセフトンが絶好のタイミングでスパイの正体をバラし、彼を囮にして、深夜、中尉を隠し場所から救出し、2人で鉄条網の柵外に脱出するのだ。

 終盤のこの一連の流れは適度なユーモアを交えながらもスリリングで面白い。 同胞兵士の標的にされて銃撃されるスパイには気の毒だけど、冒頭とは対照的な脱出劇の成功は痛快だった。
  【◎△×】7

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