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手錠のまゝの脱獄


1958年  アメリカ  97分

監督
スタンリー・クレイマー

出演
トニー・カーティス
シドニー・ポワチエ
カーラ・ウィリアムス
セオドア・バイケル
ロン・チェイニーJr.

   Story
手錠でつながれたまま護送車から脱走した白人と黒人の服役囚を主人公に、人種問題に男同士の友情をサスペンスフ ルに絡めて描いた人間ドラマ。

 豪雨のハイウェイで囚人護送車が事故を起こし、 横転した車から白人のジョン・ジャクソン(トニー・カーティス)と黒人のノア・カレン(シドニー・ポワチエ)が脱走する。

 手首と手首を手錠でつながれた2人は、互いに相手に人種的偏見と憎悪を抱いていた。

 武装警官の山狩りを逃れ、山間の小さな町で人々のリンチに遭いそうになりながら、見知らぬ道をひた走るジャクソンとカレン。 やがて子供と暮らす女性(カーラ・ウィリアムス)と出会う。
 彼女の協力で手錠の鎖を切ることに成功した2人は、別々の道を逃げることにするが・・・。


   Review
 1960年代辺りのアメリカでの人種差別は、バスも飲食店もトイレでさえも「白人オンリー」「黒人オンリー」と画然と区別され、 日本人の私が思うよりもずっとずっと激しいものだったらしい。

 そんな時代に白人と黒人を手錠でつないで護送するということが実際にあったのかどうか分からないけれど、発想としては面白い。 偶然が重なって護送車から脱走できたというのに、手錠でつながれた相手がこともあろうに白人と黒人だ。 互いに偏見に凝り固まっているのだから、ことがスンナリ運ぶはずがない。

 2人を追って捜索隊が編成された時、地元の保安官(セオドア・バイケル)が州警察から来た警部に「追跡の必要はない。 2人は間もなく殺し合うはずだから」というシーンがある。


 じっさいジャクソンとカレンは逃亡しながら何かというとつかみ合って喧嘩をする。
 しかし、もしも相手を殺してしまったら、その死体を引きずって逃亡しなければならない。 生き延びるためには、2人は力を合わせない訳にはいかない運命共同体なのだ。

 逃亡しながら2人の間に徐々に阿吽の呼吸が生まれてゆくのは、バディものの定番とはいえスリリングで面白い。
 可笑しかったのは2人が大きな食用ガエルを捕まえて、火で炙ってむしゃぶり喰うところ。“腹が減っては” 戦さどころか逃げることもままならない。

 タバコを分け合ったりして (あの激流をずぶ濡れで渡って、どうやってタバコがぐちゃぐちゃにならなかったのかが不思議だけど)、 いがみ合いながらも2人の間に気持ちの交流が生まれてゆく。

 それにしても手錠って重いだけでなく、痛そう・・・。山間の小さな町にたどり着き、深夜、屋根の明り取りから民家に忍び込もうとして、 ジャクソンが足を滑らせるシーン、手首に手錠が食い込んで、これはもう見ているだけでじつに痛い。
 じっさい、この時にできた傷が化膿してジャクソンは発熱し、この後の逃走に大きな影響を与えることになる。

 女が子供と2人だけで暮らす民家に逃げ込み、手錠を外してやっと自由になった時、かえって2人が一緒の行動を選ぶのが面白いと思った。

 勿論、はじめは別々の道を取ろうとするけれど、民家の女がわざとカレンに危険な底なし沼への道を教えたと知った時、ジャクソンは女をふり捨ててカレンの後を追う。

 そして2人はカナダに向かう貨物車に追いつくと、少年に撃たれて重傷を追ったジャクソンを、カレンは必死に貨車に引っ張り上げようとする。 どうしても無理と分かると、なんと自分も貨車から転がり落ちて、ジャクソンとともに捜索隊に捕まる道を選ぶのだ。

 貨車の上と下で、命がけで手を結び合う2人。手錠で無理やりつながれたのではなく、自分の意思から出た行為だ。 この映画、陰に陽に手錠が効果的な働きをしているなと思う。

 ジャクソンを膝に抱えて、カレンが歌う「ロング・ゴーン」・・・、微笑を浮かべて死にゆくジャクソンへの挽歌のようだ。 2人がいつしか人種を超えた友情にたどり着くラストは、心地よく、胸に滲みてくるものがある。

 町人たちのリンチから2人を救い、逃がしてくれる中年男(ロン・チェイニーJr.)(手首に手錠痕らしき古傷があり、かつて囚人だったことをうかがわせる) や、 追跡を続けながらも「囚人といえど人間」という視点を失わない人間味ある保安官など、脇の登場人物たちが映画の余韻を深めているように思った。
  【◎△×】7

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