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抵抗<レジスタンス>
―死刑囚の手記よりー


1956年  フランス  100分

監督
ロベール・ブレッソン

出演
フランソワ・ルテリエ
ロジェ・トレルヌ
ローラン・モノ
モーリス・ベアブロック
ジャック・エルトー
シャルル・ル・クランシュ

   Story
 フランスのアンリ・ドヴィニ大佐の手記に基づいて、ドイツ占領下のフランス、リヨンで捕えられたフランス将校が監獄から脱獄する経過を、 記録映画的な手法で描いた脱獄映画。

 1943年、レジスタンス派のフランス軍中尉フォンテーヌ(フランソワ・ルテリエ)がリヨンのモントリュック監獄に投獄される。

 脱獄を決意した彼は、スプーンを研いでナイフを作り、枕や衣類を裂いて綱を作って、準備を進める。
 朝の洗面時には収容者同士は秘かに連絡を取りあい、中でも牧師のドゥ・レリス(ローラン・モノ)はフォンテーヌの支えになる。

 決行が近づいた時、囚人でいっぱいになった監獄は、16歳の少年脱走兵ジョスト(シャルル・ル・クランシュ)を彼の房に放り込み・・・。


   Review
 脱獄・脱走ものは好きなジャンルだ。すぐ思い浮かぶのは『大脱走』『パピヨン』『アルカトラズからの脱出』『ショーシャンクの空に』などなど。 これらが本作同様実話に基づいているとはいえエンタメ性たっぷりの娯楽作品なのに対して、本作はこんな脱獄ものがあるかと思うほど地味だ。

 主人公が脱獄の方法を工夫し、準備を進めていく様子が、丁寧にかつ淡々と綴られる。
 セリフは極端に少なく、主人公の置かれている状況や心理はナレーションで語られるだけ。それも彼の視点からだけなので、客観的な事実関係や全体の様子はよく分からない。
 しかし、そんなところがかえってリアルで緊迫感をかもしだす。

 主人公フォンテーヌの観察眼の細かいこと、手先の器用なのには驚いた。
 彼は入れられた独房を細かに調べ上げ、扉のハメ板の隙間をつなぐ板の材質が少し薄いことに気づく。

 そこでステンレス製のスプーンをくすねて、檻房のコンクリ床で研いで鋭利なノミにする。これでつなぎ板を削り落とし、ハメ板を外せるように細工するのだ。

 このナイフがなかなかの優れモノで、ベッドのスプリングから針金を折り取ったり、それを芯に撚りこんで脱出用のロープを作るために、枕や衣類を裂くのにも使う。

 さらに隣房の老人から「鈎(かぎ)がいる」とアドバイスされると、使われなくなって半開きになっている小窓を外し、 金属製の外枠を捻じ曲げて大きくて丈夫なフックを作る。
 黙々として行われる作業は、まさに彼の不屈の精神 ―自由を束縛するものへの “抵抗”― そのものに思えてくる。

 こうした作業で出る木屑や割った窓ガラスの破片をどう処理するかと思ったら、囚人たちは毎日決まった時間に行列を作って外に出て、 バケツに入れた自分の汚物を捨てる。(こんな描写もとてもリアルで面白い。)
 この時バケツに入れて汚物と一緒に捨ててしまうのだ。なるほど、これなら見つけられずにすむ。

 汚物捨てが終わると横一列に並んだ蛇口で顔を洗う。この時がたがいの情報交換のチャンスだ。
 といっても、絶えず「しゃべるな!」という看守の声が響くので、小声で大急ぎの会話、それから素早く渡す小さな紙のメモ、 ・・・こんな程度でもけっこう確実に情報が行き渡るのが面白い。

 そうこうしているうちに、仲間から「急げ」「すぐ銃殺だ」と脱獄の決行を促される。「なんで?」と思ったら、 その後に、国家秘密警察本部に連行されたフォンテーヌが、テロの罪によって死刑が宣告されるシーンが出てくる。


 ここで彼が軍情報部に属し、テロ活動をしていたことが (映画を見ている私にも) 分かる訳だけれど、 囚人たちはフォンテーヌの罪状やその結果の刑罰など、予め判っていたのだろう。(もちろん彼自身も。)

 で、いよいよ決行という時に、彼の房に16歳の少年脱走兵ジョストが放り込まれる。
 囚人が増えすぎて独房が足りないという理由だけれど、ほんとうは囚人の動静を探るスパイかも知れない。 と、ちょっと緊張させられたりもするけれど、結局、フォンテーヌは計画を打ち明けて、2人で脱獄することになる。

 ジョストは口は生意気だけど、いざとなると怖気づいたり、長時間じっと待つ間にうたた寝をしたりして、未熟な少年っぽさが可愛い。
 さらに壁をよじ登ったり、塀にロープを渡して伝ったり、脱獄も1人では無理なところがあったりして、偶然とはいえ、フォンテーヌは相棒がいてよかったことになる。

 無事、脱出して、遠ざかっていく2人の後ろ姿に安堵感とともに何かしみじみした思いが湧いた。
  【◎△×】7

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